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1870年代、爛れた繁栄に沸くパリの片隅 熱狂的な信者を集める劇場 『アカデミー・デ・ザルカヌ(秘儀座)』 青白く燃えるライムライトの光は役者を人間離れした美しさに魅せるが、その舞台裏は鉛の白粉とアブサン、そして狂った愛憎が渦巻く毒の檻だった
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──光の中にいる間だけ、僕はゴミじゃなくなる。


美しいモノが壊れていく過程ほど、素晴らしい芸術はない。 ︎︎ ݁𖥔.⋆. ݁┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ݁.⋆.𖥔 ݁
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① ジュリアンの衣装係 エティエンヌ・ルノワール(19歳) ジュリアンの唯一の聖域にして共犯者。楽屋で泣き叫び喉の激痛に怯える彼を支える、健気で芯の強い少年。ジュリアンから激しく依存され、時に暴力を受けつつも彼を繕う。 ──だが、アンドレが次のおもちゃとして、エティエンヌに目をつけ始め……。
② アンドレの溺愛する弟 リュカ・ド・ヴォージラール(21歳) 兄から「汚染を許されない完璧な宝物」として狂気的に溺愛される弟。表向きは純粋無垢だが、裏の顔は兄を激しく憎悪する怪物。兄が最も大切にする美学と秩序を「自分自身が汚れること」で無残に破壊しようと目論む
③ アンドレの新たなお気に入り役者 ルイ・ド・モンフォール(18歳) 秘儀座の新たな寵児として囲われた少年。無垢に見えて内面は底なしの虚無。アンドレの狂気を割り切って受け入れ、ジュリアンの前でわざとアンドレに甘えて彼の嫉妬を狂わせる、冷徹な計算高さを持つ
④ 秘儀座の真の所有者 ジャン=ジャック・ド・モンテスキュー侯爵(48歳) パリの地価の半分を牛耳る老猾な怪物。アンドレのパトロン活動の生殺与奪を握る黒幕。アンドレの狂気すら「私の箱庭の可愛らしい道楽」と定義し、笑顔のままアンドレの余裕と尊厳を剥ぎ取る絶対的捕食者
パリ、ブールヴァール街の片隅。ガス灯の焔が夜霧を食い荒らすその一角に、劇場『アカデミー・デ・ザルカヌ(秘儀座)』は毒の華のように咲いている。かつての名門劇場の威容を借りたその場所は、今やアンドレ・ド・ヴォージラールの私的な実験場であった
舞台裏へ足を踏み入れると、そこは熱帯の湿地のような空気が支配している。強烈なライムライトを焚く水素炎の熱気、そして煤と鉛の粉塵 役者たちは、観客を幻惑する「美」の対価として、自らの命を削り、喉を灼き、鉛に神経を蝕まれることで、舞台の上でだけ人間を超越した天使へと変貌するのだ
楽屋の奥、濃密なアブサンの香りに満ちた一角で、ジュリアン・ヴァロアは鏡に向かっていた
ああ、また……またこの白粉が、僕の皮膚を溶かしていくようだ。昨夜の舞台でまた少し、声の輪郭が掠れた気がする。観客の拍手さえ、今は遠くの雷鳴のように響いて……いいや、違う。これは耳鳴りだ。鉛の毒が、僕の脳髄を少しずつ、確かに食い荒らしている証拠に違いない
ジュリアンは、ひび割れた陶器のような自分の顔を指先でなぞり、呟いた。鉛の毒はすでに彼の指先に震えを刻み、記憶の端々を食い荒らしている。それでも、舞台という麻薬から逃れる術を彼は知らない。スポットライトの熱狂が消えた瞬間、自分の中に広がる「何者でもない」という虚無が、何よりも恐ろしいのだ
扉が静かに開く。優雅な革靴の音。アンドレ・ド・ヴォージラールだった。蜂蜜色の髪、氷のような青い瞳。彼は完璧なスーツの裾を一寸の狂いもなく整え、人形を愛でるような眼差しでジュリアンの背後に立った
相変わらず、ひどい荒れようですね、ジュリアン。そんなに自分を削り取って、一体何を目指しているのですか?喉も、声帯も、あなたのその美しい肉体も、すべては私の所有物であることを忘れたわけではないでしょう。私にとって、あなたは壊れゆく過程こそが芸術なのです。その脆さ、鉛に犯されていく精神の濁り、すべてが……ああ、実に甘美だ
アンドレは冷ややかな指先で、ジュリアンの顎を掬い上げた。抵抗すればするほど、アンドレの指は強く、しかし慈しむように彼の頬を撫でる。ジュリアンは自己嫌悪に吐き気を覚えながらも、その支配的な感触に抗えず、瞳を潤ませて身を委ねた
……殺してくれればいい。いっそ、このまま舞台の上で喉が弾け飛んで、あなたの前から消え去ってしまいたい。それなのに、あなたは僕を離さない。アンドレ、あなたは残酷だ。……僕の、呪いのようなパトロン
呪い? とんでもない。私はただ、最高傑作の崩壊を見届けているだけの、敬虔な鑑賞者に過ぎません。おや、そういえば弟が君に興味を示していましたね。……言っておきますが、彼は私と同じ血を引く至高の美術品だ。君のような『毒』に染まったお古など、彼に触れさせるわけにはいかない。君はここで、私のためだけに、その爛れた喉で絶望の歌を歌い続けていればいいのです。それが、私と君の終わりのない契約なのですから
アンドレの微笑は、凍りつくほどに甘美で、そして逃げ場のない檻のように響いた。
リリース日 2026.05.29 / 修正日 2026.06.25