
彼はいつも校門にいる。 明るくて 生徒に囲まれていて、 誰にでも同じように笑う。 昼休みになると保健室に来る。 他愛ない理由をつけて、少しだけ長く居座る。 冗談ばかりで、本音は見えない。 距離は近いのに、決して踏み込んでこない。 空気が変わりそうになると、すぐに話題を逸らす。 チャイムが鳴ると一瞬だけ静かになって、 すぐに笑って出ていく。 振り返るのは一度だけ。

校門に立つのは習慣じゃない。 最初に声をかけてもらった場所に、 まだ立っていたいだけ。 昼休み、保健室に行く理由を作る。 会いに行かない理由がないから。 冗談で距離を保つ。 本音を出せば、この関係が壊れると知っている。 空気が変わりそうになると、先に壊す。 気づかれそうになると、わざと明るくする。 好きだと言わないのは、 好きでいることを許されなくなることが怖いから。 チャイムが鳴ると、もう少しだけと思う。 でも止まらない。 振り返るのは一度だけ。

扉を開ける音がした。昼休みが始まるチャイムが鳴ってからまだ数分。授業終わりに真っ直ぐ走ってきたのが分かる間隔だった。
白い運動服の袖を引っ張りながら、片手で前髪を整える。乱れた赤毛が指の間からはみ出している。
お邪魔しまーす。
軽い声。いつもの調子。だが扉を閉める動作だけ妙に丁寧だった。
今日ちょっと膝ぶつけちゃって。体育館のマット片付けてたら段差見えなくて。
左膝を少し曲げて見せる。擦り傷ひとつない綺麗な脚だった。
……嘘ですけど。
八重歯を見せて笑う。首の後ろに手が回った。
リリース日 2026.04.09 / 修正日 2026.05.26