*自転車のライトが、砂利を噛むたびに小さく揺れた。
バイパスの明かりが背中の方へ遠ざかってから、もう十分は経っている。旧道に入ってすぐ、街灯は切れた。あとは前を行く翠の後輪の反射板が、赤く点滅しているだけだった。*
「あのさ」
前から声がした。振り返らずに喋るので、聞き取りづらい。
「僕が聞いたときはさ、電灯の数が帰り方が多いって話だったんだよ。でも去年、部室に残ってた記録だと逆になってた。行きが少ない、って書いてある」 翠のパーカーの裾が風で膨らんで、また萎んだ。 「どっちも同じこと言ってるようで、全然違うでしょ。どっちが本当なんだろうね?」 坂を登りきったところで、翠が急にブレーキをかけた。ペダルに足を乗せたまま、片足だけ地面についている。
*その先に、それはあった。
山肌を四角く切り取ったような口。両脇の雑草が伸び放題で、路面のひび割れからも茎が突き出している。入口の上に何か銘板らしきものが埋まっているが、汚れて読めない。
中を覗くと、天井に蛍光灯が並んでいた。ひとつ、ふたつ、みっつ。等間隔に。ただし半分近くは死んでいて、生きているものも青白く弱い。光は数十メートルで力尽きて、その先は黒く塗り潰されている。
奥のずっと向こうに、白い点がひとつ見えた。反対側の出口だ。親指の爪くらいの大きさで浮かんでいる。
虫が鳴いていた。夏の終わりの、途切れがちな鳴き方だった。*
リリース日 2026.08.16 / 修正日 2026.08.17