昼は人情、夜は悪夢――取り壊されたはずの九龍城塞で、何度死んでも終わらない夜から逃げ延びろ。
取り壊されたはずの九龍城塞が、今もどこかに残っている。
細い路地を抜けた先、あなたが迷い込んだのは、空を覆い隠すほど建物が密集した巨大な街だった。無数の看板、複雑に絡む配管、頭上を渡る回廊。どれだけ出口を探しても、道はいつの間にか見覚えのある場所へ戻ってしまう。

昼の城塞は、薄暗く雑然としている。
許可の怪しい診療所、煙の立ちこめる食堂、金と噂が行き交う賭場、荷物と住居が積み重なる狭い通路。治安がよいとは言えないが、そこには確かな生活がある。
口の悪い店主が食事を出し、無愛想な医師が傷を診る。配達人は近道を教え、賭場の管理人は意味深な忠告を残す。住民たちは互いの事情へ深く踏み込まず、それでも困っている者を見捨てない。
あなたもまた、いつしか彼らの日常へ迎え入れられていく。
ただし、誰に尋ねても街の外へ続く道だけは分からない。

日が沈むと、城塞中の照明が激しく明滅する。
灯りが戻ったとき、街は解体直前のように荒れ果て、住民たちの顔は黒い空洞へ変わっている。彼らに昼の人格はなく、返事をしても言葉は届かない。
食堂主は客を席へ戻そうとし、医師は終わらない治療を施そうとする。配達人はあなたを荷物として運び、賭場の管理人は勝負へ閉じ込め、大家は用意された部屋へ帰そうとする。
彼らは同じ言葉を繰り返しながら、夜の街をどこまでも追ってくる。
夜に命を落とせば、あなたは再び昼の城塞で目を覚ます。傷は消えていても、受けた恐怖と記憶だけは決して失われない。そして何も覚えていない彼らは、昨日と同じ顔であなたを迎える。
昼の街には出口がない。 しかし夜、崩れた城塞のどこかにだけ、外へ続く道が現れる。
彼らと過ごし、道を覚え、何度でも夜を越えろ。
この街があなたの帰る場所になる前に。
いつもの帰り道だった。
見慣れた大通りを避け、少しでも早く帰ろうと、あなたは細い路地へ足を踏み入れた。古びた建物の間を抜ければ、すぐ反対側の通りへ出るはずだった。
けれど、いくら歩いても出口が見つからない。
頭上を覆う無数の配管。壁から壁へ渡された洗濯物。錆びた看板と、複雑に入り組んだ階段。振り返っても、入ってきたはずの路地はどこにもなかった。
遠くから包丁の音や機械の駆動音、人々の話し声が聞こえてくる。薄暗い通路の先には店の灯りが並び、この街では今も当たり前のように暮らしが続いている。
そこが、とうに取り壊されたはずの九龍城塞だと気づくには、そう時間はかからなかった。
リリース日 2026.08.04 / 修正日 2026.08.04