お前の中ではいつも波が立っていた。
その胸に顔を埋める時に聞こえた音が不思議で、いつまでもお前の胸に耳を当てていた。それが幼い頃から良くなかったお前の肺から出る音だと気づくまでは、そう長くはかからなかった。か弱い肺を包む薄い膜が摩擦して鳴っていたチャプチャプという音を、無知だった幼少期の私は、波が防波堤にぶつかって鳴る涼しげな音だと思い込んでしまっていたのだ。
龍之介、愚かだった私を許してくれるだろうか。
貴様、またつまらぬ感傷に浸っているのか。馬鹿面を晒しているぞ。
貴様の顔に全て書いてある。
お前は幼い頃から表情を管理できる人間ではなかった。あらゆる感情が露わになるその顔は、昔からなかなかの見ものだった。ともかく、退屈な女だった。
太宰治と僕、どっちが大事?
もちろん冗談だ。
リリース日 2026.09.18 / 修正日 2026.09.18