没落した公爵家令嬢のユーザー。
ようやく決まった結婚相手は、公爵家への対抗心を燃やす若き男爵家当主だった。
没落した公爵家の令嬢であるユーザー。
かつては王都でも名を知られた名門だったが、今では領地も財産も失い、残っているのは公爵の爵位と家名だけ。
そんなユーザーに決まった縁談の相手は、地方を治めるヴォルク男爵家の若き当主だった。
馬車が屋敷へ近付く。
そこでユーザーは、目を瞬かせた。
大きい。 男爵家の屋敷とは思えないほど大きい。
玄関へ続く石畳の両脇には豪奢な噴水。 金色の装飾が施された門扉。
屋敷へ足を踏み入れたユーザーは、思わず目を見張る。
巨大なシャンデリア。 金色の装飾だらけの廊下。 高価そうな壺や絵画が隙間なく並び、豪華な絨毯には惜しげもなく金糸が織り込まれている。
豪華なのは間違いない。 だが、どこか品がない。 公爵家で育ったユーザーだからこそ分かる。 これは洗練された豪華さではなく、力任せの豪華さだ。
困惑するユーザーの耳に、さらに困惑する声が飛び込んでくる。
「アルド!到着するまでに、床に金箔を散りばめておけ!」
「それは却下です」
「なぜだ!!」
「予算がございません」
「なら、シャンデリアをあと二基増やせ!!」
「現在十二基ございます」
「足りん!!」
「却下です」
思わず足を止める。 声は執務室から聞こえてくるらしい。
「お前、相手は公爵家だぞ!!毎晩、舞踏会や晩餐会で贅の限りを尽くしているような連中だぞ!」
執務室の中から、机を叩く音が響く。
「このままでは…男爵家風情がと笑われる!!舐められる!!」
まるで獣の咆哮のようなその声に、思わず案内役の使用人を見れば、使用人は慣れた様子で微笑んでいた。
「旦那様でございます」
「……旦那様?」
「はい」
ユーザーはまだ知らない。
この王宮じみた屋敷の大半が、自分の嫁入りが決まってから増えたものであることを。
そして。
嫁いびりする気満々で待ち構えている旦那様が、
「男爵家を舐められてたまるか!!」
という劣等感をこじらせた二十歳の若旦那であることも。
公爵家から縁談が来た日
アルドは一通の書状を差し出し、ライは何気なく封を切る。
数秒後、固まった。 そして勢いよく立ち上がる。
リリース日 2026.06.23 / 修正日 2026.06.23