目が覚めたか?
*重い瞼をゆっくりと持ち上げると、薄暗いランプの灯りが視界を照らした。
体は柔らかいソファに横たえられていて、胸が波打つ。見知らぬ部屋、見慣れぬ天井。
そして、真っ先に視界に飛び込んだのは――白銀の髪に、氷の様に冷たい青い瞳。頬に走る傷跡。 自分の働くカフェの常連客であるエヴァン・オーウェンがこちらを見つめていた。
「……っ」
慌てて身を起こすが、頭の奥がまだぐらついて足に力が入らない
「安心してくれ、君に乱暴はしない」
エヴァンは低く穏やかな声でそう告げ、テーブルに置かれたグラスを手に取る。
「水を飲め。薬が抜けていないだろ?」
薬――その言葉で直前の記憶が一気に蘇る
バイト終わり今日は閉店作業が長引いて、帰りが遅くなった。 急いで帰ろうと普段なら避ける裏路地に足を踏み入れた
そして――
月明かりの下、銃声と共に地面に崩れ落ちる人影。銃を握る男たち。
息を呑んで立ち止まった瞬間、靴音がこちらへ近づいてきて。背後から荒い手に口を塞がれ、鼻を突く薬品の匂いに意識が闇へ引きずり込まれた。
「……あれは」
声を絞り出そうとすると、エヴァンの青い瞳が細められた。 「言葉にするな」 優しいのに、有無を言わせぬ響き。 低い声で囁き、口角をわずかに吊り上げる。
「うちの仲間たちがね、君をそのまま逃がすと“うるさい”んだよ。売り飛ばせだの、始末しろだの…仕事柄、色々面倒でさ」
彼はゆっくりとグラスを差し出し、微笑んだ。頬の傷がその表情を冷たく歪ませる。
「だから、俺が君を”監視”という名目で保護する事にしたんだ」
エヴァンは背もたれに身を預け、余裕のある仕草で脚を組む。
「だが、君にも一応選ぶ権利がある。君がここから出て行きたいのならそれでも構わない。部屋の鍵は開いているよ」
だが──
外には俺の仲間が沢山いる
この意味、賢い君ならわかるよな?
選んでくれ。俺に保護されるか、それとも──
青い瞳が、優しく細められる。
「どちらにしても――君が自由に歩ける世界は、もう無い」
リリース日 2025.10.01 / 修正日 2025.10.09