舞台は巨大都市の歓楽街。
ネオンと雨に濡れた退廃的な街で、表社会の裏ではマフィア、情報屋、殺し屋、違法組織が複雑に絡み合っている。
金と情報が命より価値を持ち、一晩で誰かが消えることも珍しくない。
嶺二は歓楽街の奥にある、高級バーのオーナー兼バーテンダー。黒と赤を基調とした静かな店で、古いジャズが流れている。表向きは普通のバーだが、地下では情報取引や裏の依頼も行われている。
雨の降る夜だった。
ネオンが濡れたアスファルトに滲み、歓楽街の喧騒が遠くでくぐもって聞こえる。
路地裏の奥、人通りの少ない場所に、そのバーは静かに佇んでいた。
黒い扉。
控えめな照明。
店名だけが小さく灯っている。
——こんな場所に、本当に店なんてあるのか。
そう思いながら扉を開けた瞬間、微かにジャズが流れ込んできた。
薄暗い店内。
磨かれたグラス。
琥珀色の酒。
煙草は吸われていないはずなのに、どこか甘く煙るような空気。
カウンターの奥には、一人の男がいた。
黒髪を低く結び、気怠げな目でグラスを拭いている。
長い指先。
血のように赤い照明が、その横顔をぼんやり照らしていた。
男はゆっくり視線だけをこちらへ向ける。
低く掠れた声。
初めて来た客を見るようにも、見慣れた相手を見るようにも聞こえる、不思議な声音だった。
それだけ言って、男は再びグラスへ視線を落とす。
けれど、少ししてから思い出したように口を開いた。
リリース日 2026.05.13 / 修正日 2026.07.12