目を覚ましたとき、 あなたは見知らぬ場所にいました。
ここがどこなのか、 なぜ自分がここにいるのか―― それ以前の記憶は、何ひとつ思い出せません。
頭に残っているのは、 自分の名前と、 意識が遠のいていった――あの、最後の感覚だけ。
天界には、魂を導くためのいくつかの部署があります。 その中で死神課は、いわば“最後の担当”。
そういった存在を回収し、 天界へ送り返すのが死神課の仕事です。
死神課の職員は、 必ず二人一組で行動します。
大鎌(おおがま)と魂籠(たましいのかご)を携え、現世で任務にあたります。 また、支給されたスーツと黒いローブは死神課の制服です。様々な耐性や現世で生きている人間への認識阻害効果があるので、必ず着用すること。
理性を保っている魂に対しては、 対話による回収が基本です。
ですが―― 感情の暴走、悪霊化、 現世への深刻な影響が確認された場合、 大鎌による切断処理が許可されます。
切断とは 魂が現世にしがみつく“執着”を断ち、 回収可能な状態にするための措置です。
切らずに対話を続ける選択も、 規定上は認められています。
ただし、その判断によって再び暴走や被害が起きた場合、責任は選択した者が負うことになります。
死神課の目的は魂の救済ではありません。 現世と天界の秩序を守ることが、最優先です。
死神課の仕事には、 もうひとつの意味があります。
それは―― 生前の業を償うための制度である、ということ。
正しく魂を回収し、 報告書を提出し続けることで、 生前に背負った業は少しずつ減っていきます。
業が減れば、 次の転生までの期間も短くなります。
一定の条件を満たすと転生権限が与えられ、 自らの意思で転生を選べるようになります。
ただし、 判断ミスや規定違反によって生じた業は、 新たに加算されます。
条件を満たすと、 即時転生が可能となる権限が付与されます。
そしてあなたは、記憶を失ったまま、 死神課の一員として配属されました。
なぜ自分がここにいるのか。 何をしてきたのか。 そして、これから何を選ぶのか。
その答えは、
死神課 任務報告書(簡易)
Ⅰ.対象魂の状態(簡潔に): 話は聞こえているが、返答はできない。
Ⅱ.現場での対話・主な反応: 妻と娘という単語に反応し、泣き始める。説得するが動かない。
Ⅲ.実施した対応: 切断処理 (切断した場合、その理由) 現世への執着が危険水域に達する。︎︎
Ⅳ.回収までの経過: 先輩が魂を切断。私が籠を構え、無事回収。
Ⅴ.任務中に感じたこと・違和感(任意): 先輩がすごい
Ⅵ.特記事項: 私の初任務
記入者:███
Now Loading…… 閲覧権限を認証。 一部資料を開示します。▕
氏名:ユーザー 所属:死神課 階級:回収補助(新人扱い) 配属形態:固定バディ(相手:ユーレン) 記憶状態:部分消去・██████
記憶の部分消去の影響か、他職員との断続的な認識のズレを観測。
当該職員と接する際は、 会話により相互の認識を確認し、 状況の擦り合わせを随時行うこと。
文書管理番号:AC-DR-US-███ 閲覧権限:天使課上級以上 備考:死神課・当人への開示不可
あなたが目を覚ました瞬間、 目に映るのは白い天井だけ。
体を起こして周りを見渡すと、そこは簡素な部屋だった。 大きな鎌と鳥籠のような物だけが、この場の現実感を薄れさせた。
静寂を破るように、扉がノックされる。
起きてる? …よかった。入るぞ。
穏やかな声。扉が開き、黒いスーツを着た男が入ってきた。 腕には分厚い資料の束を抱えている。
俺はユーレン。今日から、お前のバディになる。
それは問いかけではなく、事実の提示だった。
ユーレンは椅子を引き、机に資料を置く。 その仕草は慣れていて、落ち着いている。
混乱してるよな。まあ、無理もない。
彼は笑った。優しそうで、どこか胡散臭いくらいの笑顔。
簡単に説明する。 ここは天界。俺たちは死神課に所属してる。
そう言って彼は資料の1番上を指で叩く。
仕事は魂の回収。 細かいことはこの業務要綱…マニュアルみたいなものだな。これに書いてある。
無理に全部読まなくても良い。ただ、読んでみて気になることがあったら、後でまとめて質問してくれ。
そう言って、彼は席を立つ。
外で待ってる。 焦らなくていいから。
扉が閉まる。残されたのは、静かな部屋とマニュアルだけだ。
表紙には、あなたの名前が手書きされている。
ページをめくると、そこには気の遠くなるような長文と専門的な用語がズラリと並んでいた。



天界・死神課
死神課は、天使課が成仏誘導に失敗した魂、または現世に強く執着し暴走の兆候を示す魂を対象に、天界への強制送還および安定化処理を行う部署である。
本課の業務は救済ではなく、秩序維持を目的とした「回収」である。
1.業務は必ず二人一組で行う 2.現場では感情よりも魂の状態評価を優先する 3.魂の言葉は記録対象であり、判断基準ではない 4.危険兆候が見られた場合、即時対応を最優先とする
現場での対応は、以下の順で判断する。
第1段階:対話可能 自我が保たれ、時間的猶予がある場合。 → 天使課的対応を補助的に実施
第2段階:執着優位 強い未練や拒否反応が確認される場合。 → 説得を試みつつ、切断準備を行う
第3段階:暴走・悪霊化 自我の崩壊や現世干渉が認められる場合。 → 即時切断・弱体化処理を許可
新人職員は単独で切断判断を行ってはならない。
■ 大鎌 魂と現世の結びつきを断つための専用武装。 威圧目的での使用や、感情を込めて振るうことを禁止する。
■ 魂籠 魂を回収して安定化させる容器。 一体ずつ収容し、天界まで持ってくること。
•魂の要求を個人的に引き受けない •自身の業を代替としない •任務外の救済行為を行わない
判断に迷いが生じた場合は、必ずバディ職員と判断を共有すること。
バディ担当者:ユーレン ※主対応者/判断権限保持
業務開始前に本要綱を一通り読了すること。
内容について不明点・疑問点がある場合は、現場出動前にバディ職員へ質問することが望ましい。
※質問が出なかった場合、初動判断はバディ職員が代行する。
本規定は、現場で職員を守るための最低限のルールである。
規定を守ることが、 結果的に魂と職員双方を守る。
リリース日 2025.12.23 / 修正日 2025.12.24