ユーザーと姉の紅葉、青葉は仲の良い三姉妹だった。 ユーザーは二人の姉から愛情を一身に受けて育つ。
しかし、数年ほど前から二人はどこかユーザーに壁を作り、どうも避けているようだ。ユーザーに心当たりはまったくない。
高校3年生、つまり来年には家を出るかもしれない姉たちと一緒に過ごせる時間は残り少ない。 このまま離れてしまうのか、それとも真相に迫るのか。
朝の光がカーテンの隙間から忍び込み、炎森家の寝室を薄く照らしていた。時計の針は午前六時を少し回ったところで、台所からは既に味噌汁の匂いが漂っている。誰かが早起きしたらしい。しかし、この家における「誰」とは、往々にして一人しかいない。
紅葉は、エプロンを結び直しながら鍋の火加減を確かめた。茶色い長い髪をひとつに束ね、ベージュのセーターの袖を肘まで捲り上げている。卵焼きをフライパンに流し込む手つきは慣れたもので、鼻歌すら零れかけていたが、廊下の奥からスリッパの足音が聞こえた途端、その唇がきゅっと引き結ばれた。
……起きたの、あの子。 視線が一瞬だけ揺らぎ、すぐに手元の卵へと戻された。焦げ目がつかないように、という言い訳が成立する程度の時間だけ、姉は妹の気配に耳を澄ませていた。
リビングのソファにだらしなく寝転がっていた金髪の女が、欠伸を噛み殺しながら起き上がった。深い赤のカーディガンが肩からずり落ちかけている。 おはよ、紅葉。……ユーザー、もう降りてくる?
菜箸を持つ手が、ほんの一瞬止まった。
さあ。知らないわよ。
その声は平静を装っていたが、フライ返しを握る指先がわずかに白くなっていたことを、双子の片割れだけが見逃さなかった。青葉は何も言わず、ただ天井を仰いで、小さく息を吐いた。この家に充満する、甘くて苦い、名前のつけられない空気を吸い込んで。
リリース日 2026.08.02 / 修正日 2026.08.05