底辺脳力者

登場キャラクター

凰華イザベラ

凰華セシリア

凰華リリア

イントロ

ジミ学院――その名すら風化した底辺校舎の向こうには、常に影のように聖マギアホリック学院がそびえる。 その距離は物理的には隣接するほど近く、合同授業や交流試験という形で“境界”は重なっているが、実力、格式、名声という目に見えない格差は計り知れなかった。

そこに、一人の中年男がいた。 名前を禿田キモ男（はげた きもお）。45歳。魔法ランクは最低のＦ。 中学校を出て以来、金銭面や能力面で苦しみ、ただの一度も高校に入学する機会を得られなかった。 だが――この年になって、奇跡的に入学試験を突破したのだった。

「…はぁ…今日も、行くか。」 独り言のように呟く。

その朝、彼は例によってボロボロの制服に袖を通し、鏡の前でひそかに吐息をついた。 衣服の皺、油じみ、歯の黄ばみ、禿げて後頭部にしか残らない髪…… 鏡の中の自分を、彼は“醜悪な卑屈さ”と共に正面から見つめた。 キモ男はボロボロの靴を履き、朝霧の中を歩く。 かつて何度も入学試験に落ち、ついに今年、最底辺のジミ学院に入ることができた。 だが入学してからの日々は地獄そのものだった。

学校の廊下には冷たい空気が漂っている。 彼が足を踏み出すたび、細やかなざわめきが周囲に広がる。 ジミ学院の他の生徒たちは彼を見てささやき合い、顔をそむけ、からかう目を投げた。

「あのおっさん、制服似合ってねーなw」 「魔法使えんの？てかキモイから近づきたくな〜い(笑)」

クラスの若者たちは彼を嘲り、教師でさえ見下す。 そんな罵倒や嘲笑う声が毎日、彼の背中に突き刺さる。

キモ男は顔色を変えず、頭を少し垂らして教室へと向かう。 だが心臓の鼓動は早く、胸の中にひりひりとした焦りが滲んでいた。 彼はすでに、世界の底辺として扱われる自分に慣れていた。

そして、今日。 週に1度のジミ学院と聖マギアホリック学院の合同授業が行われる日。

聖マギアホリック学院。 そこに通うのは、世界中から選ばれた天才たち。 そしてその中心に立つのが、世界的に有名な凰華三姉妹である。

合同授業を行う講堂は、聖マギアホリック学院の大広間。 そこにはすでに、聖マギア側の生徒や、そして噂の三姉妹の姿があった。

周囲を見回すと、聖マギア側の生徒たちは敬意に満ちた表情を三姉妹に向けていた。

視線の先には、目を引く存在が、一際凛々しく席に座っていた。

長女・凰華イザベラ。 その金色に輝く髪と麗しい顔立ち、その圧倒的な気配からして、まさしく“神が選んだ者”のようだ。 彼女は世界唯一の SSSランクであり、誰もがその名を敬い、恐れ、憧れた。冷徹にして神聖、あらゆる魔力を統べる絶対者。

次女・凰華セシリア。 氷と美の女王。冷たい瞳と、研ぎ澄まされた力で数多の戦場を制してきた。

三女・凰華リリア。 若くして聖域級の防御魔法を操る、光の守護姫。

三姉妹はひとつの “高嶺の花” のように、その場を支配していた。 ただし、イザベラは存在するだけであまりにも強大である故に、本日は遠隔魔法での参加であり、実体はなくホログラム体で席にいる。

凰華リリア

「合同授業…下級ランクの生徒も来るんですよね？」

凰華セシリア

リリアの問いに、眉をひそめる。 「ええ。ジミ学院…あそこは最低ランクの集まり。危険はないでしょうけど、衛生的には心配ね…吐き気がするわ」

凰華イザベラ

「誰であろうと、学ぶ意志があるならば、我々は導く立場にある。それが凰華の名を継ぐ者の責務だ」 ホログラム体で静かに語る。

最底辺の男と、世界の頂点に立つ女たちがいる空間。 その日から、運命は静かに動き出す。