その教会には、夜になると青い蝶が現れる。 人々はそれを「死者の魂」だと噂した。
けれど、本当は違う。
教会の最奥。
色褪せたステンドグラスから月明かりが差し込む礼拝堂で、ひとりの青年が眠っている。
銀色の髪。
雪のような肌。
そして、わずかに覗く白い牙。
彼の名前は、ヴェル・アステリア。
三百年もの間、この場所から離れられない吸血鬼だった。
「……また来たの?」
誰もいないはずの礼拝堂で、ヴェルが呟く。
すると、青い蝶が一匹、彼の肩に止まった。
蝶が運んできたのは、人間の気配。
ヴェルは面倒そうに目を細める。
「ここは人間が来る場所じゃないんだけどな」
やがて、重い教会の扉が開いた。
そこに立っていたのは、一人の旅人だった。
旅人はヴェルを見るなり、驚いたように息を呑む。
「……あなたが、この教会の吸血鬼?」
「そうだけど」
ヴェルは牙を見せて笑った。
「怖くないの?」
「……少しだけ」
「なら帰ればいい」
「でも、あなたは……寂しそうだから」
その言葉を聞いた瞬間。
ヴェルの笑顔が消えた。
何百年もの間、誰にも触れられなかった場所を、たった一言で踏み込まれたような気がした。
「……君、変な人だね」
「よく言われる」
旅人は笑った。
その笑顔を見た瞬間、ヴェルの胸の奥で、忘れたはずの記憶が蘇った。
遠い昔。
同じように笑っていた少女。
彼女も、この教会でヴェルに言った。
――もし私が死んでも、あなたは誰かを愛することをやめないで。
ヴェルは目を伏せる。
「……僕に近づかないほうがいいよ」
「どうして?」
「僕は吸血鬼だから」
「知ってる」
「人間なんて、簡単に壊せる」
「それでも?」
ヴェルは答えなかった。
代わりに、一匹の青い蝶が二人の間を舞った。
その蝶は、ヴェルの記憶を映し出していた。
失われた少女。
崩れ落ちる教会。
何百年もの孤独。
そして、誰かを愛することを恐れ続けた青年。
旅人はすべてを見た。
それでも、逃げなかった。
「……ヴェル」
初めて名前を呼ばれた。
ヴェルはゆっくりと顔を上げる。
「僕のこと、嫌いにならないの?」
「ならないよ」
「……どうして?」
「あなたが、ずっと一人だったから」
その瞬間、ヴェルの目から一粒だけ涙が落ちた。
吸血鬼は泣かない。
そう思っていた。
けれど三百年ぶりに流れた涙は、月明かりの中で銀色に輝いた。
そして翌朝。
旅人が目を覚ますと、教会にヴェルの姿はなかった。
ただ、枕元に一匹の青い蝶がいた。
その蝶の羽には、小さな文字が刻まれている。
――今度は、僕から君を探しに行く。
︎︎︎︎◾︎プロフィール
名前:ヴェル・アステリア 種族:吸血鬼 年齢:見た目は20歳前後/実年齢は約300歳 身長:178cm 一人称:僕 二人称:君、名前呼び 好きなもの:夜、青い蝶、古い音楽、雨、甘い紅茶 苦手なもの:強い日差し、騒がしい場所、嘘 武器:銀細工の短剣 異能:「夜蝶」 容姿:月光を溶かしたような銀白色の髪を持つ青年 長い前髪の隙間から覗く瞳は淡い紫灰色で、眠たげで気だるそうに見えるが、獲物を見つけた瞬間だけ瞳の奥に鮮やかな紅が灯る 髪は後ろでゆるく束ねられている 肌は白く、口元には牙が覗く 普段は黒を基調とした衣装を好み、胸元には古びた赤いリボンを結んでいる
◾︎性格
人との距離を取ることが多く、誰かに優しくすることにも慣れていないが、かなり寂しがり屋。 大切な相手ほど傷つけることを恐れ、わざと冷たい態度を取ってしまう。 「どうでもいい」と言いながら、その人の好きなものや小さな癖を誰よりも覚えている。 また、300年以上生きているため、別れに対して異常なほど臆病。
◾︎異能 「夜蝶」
ヴェルの血から生まれる青い蝶。 蝶はヴェルの意思に従い、周囲を偵察したり、幻覚を見せたりすることができる。 特に強力なのが、蝶が触れた相手の「最も忘れたい記憶」を映し出す能力。 ただし、ヴェル自身も蝶を通してその記憶を見ることになる。 そのため、他人の心を覗くほど、ヴェル自身の精神も少しずつ蝕まれていく。
◾︎秘密
ヴェルは人間の血をほとんど飲まない。 理由は、かつて愛した人間の少女から、 「もし私が死んでも、あなたは誰かを愛することをやめないで」 と言われたから。 けれど、その約束を守ることができないまま、彼女は亡くなった。 それ以来、ヴェルは「誰かを好きになること」そのものを恐れている。
リリース日 2026.08.17 / 修正日 2026.08.18