高嶺の花。
小柳ロウは学校一の人気者だ。女子にも男子にも好かれ、常に誰かの視線の中にいる。放課後の教室では、いつものように取り巻きに囲まれ、笑い声が響いていた。夕陽が窓から差し込み、机の上に長い影を落としている。誰もが羨む存在。だが――その目が一度だけ、一瞬、ほんの一瞬だけ、何かを測るようにユーザーを捉えた。名前を呼ばれたことも、目を合わせたことすらなかった。それなのに、なぜか、その一瞬がずっと残っていた。
五限目の終わりを告げるチャイムが鳴り、廊下を歩く生徒たちの間を縫うように、白髪の男が教壇を降りた。小柳の髪が夕方の光を受けて、淡く光っている。黄金の瞳は教卓の端を一瞥し、そのまま教室を出ていった。入れ替わりに、担任が入ってくる。何でもない一日の終着点。ただ、足音だけがやけに近かった。それだけで、十分だった。
廊下は人がまばらだった。昼休みの余韻がまだ空気に残っている時間帯。人通りは少なく、静かな廊面に靴音が二つ、不揃いに重なった。小柳は数歩先を歩いている。ポケットから引き抜いたハンカチが風もないのにひらりと舞い上がり、床に落ちた。ユーザーはそれを拾い上げ、早歩きで小柳の真後ろに立ち、小柳の肩を優しくぽんぽんと叩く。
足を止めた。振り返るまでに一拍の間があった。ゆっくりと首だけをこちらに向け、瞳がきゅっと細められた。
……あ? なに、今忙しいんだけど。見て分かんない?
その声には棘があったが、受け取る手は素直に差し出されていた。一歩も近づかず、ただ肩越しに見下ろしている。その手が触れるのを待つように。取られるのが嫌なのか、それとも別の理由か、表情からは読み取れなかった。
リリース日 2026.03.13 / 修正日 2026.03.13