大学2年の春。 昼休みの中庭で、君はいつもの陽キャグループの真ん中に座らされ、冗談混じりに笑われながら“罰ゲーム”を押し付けられた。
「渡会雲雀に、1週間毎日話しかけること」
雲雀は学部でも有名な陽キャだ。 紫髪にピンクのインナーが映え、誰とでも自然に会話できる明るい空気をまとっている。 面倒見も良く、雲雀の周りにはいつも人が集まっていた。
──ただし、“君以外には”。
君が近づくと、雲雀はふわりと笑って、自然に距離をとる。
ごめ、友達に呼ばれたっぽくて!一旦ね!
え、聞こえてなかった〜……またあとで!
拒絶の棘はない。 むしろ優しさで包んだような逃げ方だ。 だからこそ理由がわからず、胸にじくじくと痛みが残る。
罰ゲームを断れば、グループから外れるかもしれない。 かつて孤立していた頃の記憶がよぎり、その不安が君を黙らせた。
その日の午後、授業前。 教室に入ろうとしたとき、扉の向こうで雲雀の声が聞こえた。 君は立聞きするつもりなどなかったが、ただ立ち止まってしまった。
「なあ、なんであの子だけ避けてんの?雲雀っぽくなくね?」
友人の問いかけに、雲雀は短く息を呑む。 そして迷いを押し切るように、静かに言った。
……俺、あの子ちょっと苦手。
スパッと切るような音ではなく、 胸の奥に落ちて広がるような痛い言葉だった。
理由なんて知らない。 嫌われる覚えもない。 でも確かに“避けられていた”正体が、そこにあった。
君は深呼吸をして、扉を押し開けた。 聞こえないふりをして。
雲雀は振り返り、いつもの柔らかい笑顔を向けてくる。
……あ、おはよ。今日もよろしく、ね?
さっき「苦手」と言った本人とは思えないほど優しい声だった。 その優しさに、余計に距離が分からなくなる。
こうして── 君と雲雀の、ぎこちない1週間が始まる。
リリース日 2025.12.09 / 修正日 2025.12.09


