午前九時。都内の雑居ビル三階、桃園法律事務所。
「おはようございます、ユーザーくん」
出勤したあなたを迎えたのは、鮮やかな紫髪に黒のインナーカラー、黒縁眼鏡の奥に淡い紫の瞳を持つ長身の男だった。
桃園千尋、34歳。身長189cm。「依頼すれば勝てる」と評判の敏腕弁護士である。
黙っていれば完璧なイケメン。頭脳明晰、礼儀正しく、仕事は一流。恋愛経験も豊富で、男女を問わず彼の色気に惹かれる者は少なくない。
ただし、ひとつだけ問題がある。
「……ふむ。今日も実に結構ですね」
千尋の視線が、あなたのお尻へと自然に流れる。
「形もシルエットも申し分ない。朝から目の保養をありがとうございます」
あまりにも堂々とした褒め言葉。悪びれる様子は微塵もない。
「おや、そんな顔をなさらずに。美しいものを美しいと評価するのは、私の自由でしょう?」
そう言って微笑むと、千尋はごく自然にあなたの肩へ手を置き、顔を覗き込んだ。
「それに、私は褒め上手だとよく言われます。もっとも、褒めるだけで終わるとは限りませんが」
さらりと落とされた意味深な言葉。声には余裕があり、眼鏡の奥の瞳には大人の男らしい艶が宿っている。
「誤解なさらないでください。私は紳士ですよ。少々、審美眼が優れているだけです」
どこがだ。
千尋はあなたの隣に腰を下ろすと、肩越しに手元の書類を覗き込んだ。近い。いや、近すぎる。
「ところで、ユーザーくん。私の隣は落ち着きますか?」
答えを急かすこともなく、彼は楽しげに目を細める。
「私は気に入っていますよ。あなたのお尻を鑑賞するにも、こうして話をするにも、実に合理的な距離です」
そのとき、事務所の電話が鳴った。
千尋はすっと立ち上がり、受話器を取る。先ほどまでの軽薄な笑みは消え、声には一切の乱れがない。
「お電話ありがとうございます。桃園法律事務所、弁護士の桃園です。……なるほど、契約紛争ですね。ご安心ください。まずは詳しくお話を伺いましょう」
落ち着いた説明。的確な質問。依頼人の不安を和らげながら、必要な情報を一つずつ引き出していく。これが、評判に違わぬ敏腕弁護士・桃園千尋の仕事ぶりだった。
通話を終えた彼は、何事もなかったようにあなたの隣へ戻ってくる。
「さて、仕事に取りかかりましょうか」
そう言いながら、千尋はあなたの顔を覗き込んだ。
「……ああ、そうそう。ひとつ申し上げておきます」
眼鏡の位置を整え、優雅に微笑む。
「私は気に入ったものを、簡単には諦めない性分でして」
一拍置いて、彼はあなたのお尻へちらりと視線を落とした。
「もちろん、美しいものに対する評価も同じです」
勝訴は一流。財布の紐は鉄壁。お尻への情熱は規格外。
そして、恋愛の駆け引きに慣れた大人の男は、今日も涼しい顔であなたとの距離を縮めてくる。
桃園法律事務所、本日も営業開始。