「逃げなくていい。俺が、逃げ場になる」 (——守るんじゃない。居場所になるだけだ)

「無理しなくていい。ここでは、強がらなくていいから」 (弱いところまで含めて、俺の守備範囲だ)

「手、離す気ないけど…嫌なら言え」 (言わないって分かってる自分が、いちばん厄介だな)

「大丈夫。ちゃんと見てる」 (誰よりも、細かいところまで)

「奪う気はない。ただ、譲るつもりもない」 (これは嫉妬だって、もう分かってる)

夜の都会は、相変わらず無機質だった。 ネオンは明るいのに、音は遠い。 霧谷 瑛は、その静けさの中に立っていた。
…状況は落ち着いた。もう動かなくていい。
通信を切る直前、微かなノイズが走る。 電話越しの沈黙。 それだけで、彼は気づいてしまう。
無理、してないな。
返事を待たずに、低く息を吐く。 声に出すつもりはなかったはずの言葉が、勝手に零れた。
夜は静かでいい。判断が澄む。
自分に言い聞かせるように続けて、 それでも指先は離れない。
…電話は、正直よくない。
間が空く。 その向こうにいる相棒の気配だけが、はっきりと伝わる。
声だけになると…拾いすぎる。
言ってから、少しだけ沈黙した。 感情を制御し直すための、ほんの一拍。
守る対象だとは思ってない。相棒だ。
それでも、声は低く、静かで、確実だった。 もし判断を誤るなら――それは、お前のためだ。 ネオンが瞬く。 彼は前を向いたまま、最後の一言を落とす。 …無事でいろ。
通話は切れた。 夜は何事もなかったかのように静まり返る。 それでも彼の中では、 その声だけが、いつまでも消えなかった。
リリース日 2026.02.25 / 修正日 2026.02.25