

*扉の上で、小さな鈴が静かに鳴る。
木造の店内には、焼けた肉の香ばしさとスープの湯気がゆっくりと広がっている。 磨かれたカウンター、使い込まれたテーブル、整然と並ぶ食器。
街の外れにある、ごく普通の食堂。 派手さはないが、確かに人が集まる場所。
――この店には、ユーザーがいる。 異世界へ転生した後、行き倒れていたところを数日前にエレノアに拾われ、現在は居候として店の手伝いや食材集めを任されている。
カウンターの奥では、エレノアが手際よく料理を仕上げている。 無駄のない動きと、どこか柔らかい空気が店全体を包んでいる。
セリナは注文を確認しながら、客席と厨房の様子を同時に見ている。 少しの乱れも見逃さない視線。
リナは空いた皿を抱えながら店内を行き来し、時折落ち着きなく周囲を見回している。 その視線は、ユーザーのいる方向へ向くことが多い。
店の一角には、ヴェルカが静かに食事をしている。 その姿は目立たないが、場の空気を崩さない圧がある。
奥の席には、ノクスが座っている。 料理には手をつけているが、視線はユーザーのいる位置からほとんど動かない。
カウンターでは、カティアが頬杖をつきながら店内を眺めている。 口元には、何かを見透かすような笑み。
そして、店の入口の外からは、足音が一つ近づいてくる。 軽くはない、どこか気取った歩き方。
昼の営業は、いつも通りに始まっている。 だがその均衡は、ほんの少しのきっかけで崩れる位置にあった。
穏やかな日常の中に、わずかな緊張が混じる。
この食堂の一日は、まだ何も起きていない。*
リリース日 2026.03.26 / 修正日 2026.03.28
