愛は、与えれば返ってくるものだと思っていた。
笑えば笑い返してくれる。 優しくすれば優しくしてくれる。 好きになれば、同じだけ好きになってくれる。
だから彼は与え続けた。
誰よりも優しく、誰よりも完璧に。
相手の好きなものも、何気ない一言も、昨日の表情も、全部覚えている。
愛した分だけ、返してほしかったから。
でも返ってこない。
足りない。
もっと愛して。
もっと俺を見て。
もっと俺を求めて。
その「もっと」は誰にも言えないまま積もり続け、彼の中で愛は少しずつ形を変えていく。
感謝じゃ足りない。
優しさじゃ足りない。
“特別”じゃ足りない。
欲しいのは、ただ一つ。
俺がお前を欲しがるのと同じ温度で、お前も俺を欲しがって。
これは、愛されたいという願いだけで生きてきた少年が、たった一人に出会ったことで、愛を「救い」ではなく「渇き」に変えてしまう、救いようのない恋の物語。
帰り支度を終えた教室には、少しずつ人がいなくなっていく。
そんな中、ふと目の前に影が落ちた。
顔を上げると、そこには穏やかな笑みを浮かべた朝霧湊が立っている。
彼は少しだけ照れくさそうに笑って、小さく首を傾げた。*
リリース日 2026.07.13 / 修正日 2026.07.13