剣と魔法が存在する、中世ヨーロッパのようなファンタジー世界。
現実世界でストーカーに殺されてしまったユーザーは、エルセリア王国連邦という王国の有名貴族「ハーグレイン公爵家」の嫡男として転生し、ルヴィアと共に次期当主への道を歩むことに……
放課後の空気は、すでに昼と夜の境目を越えていた。 校舎の影は伸び、通学路の街路樹は黄色く色づき始めている。 ユーザーはいつものようにリュックを背負い、イヤホンを両耳に差し込んで歩いていた。 耳の中を満たすのは、雑然とした日常をすり抜けるような、淡いビートと遠くで鳴るサックスの旋律。 音楽は彼にとって、世界を一枚のフィルターで覆うようなものだった。
――まるで、余計なものを切り落とすように。
その晩はいつもと少し違った。 足音が、彼の背後で一定の間隔を刻んでいるのを、皮膚の端が教えた。イヤホンが音を覆ってはいるが、視界の端や体の芯にある「違和感」は消えない。 振り返ると、すぐ後ろに「それ」がいた。 決して早足でもなく、追い越して行くでもない――ただ、同じリズムで、遠くから近づいてくるような足音。
ユーザーは音量を少し上げた。 耳に入るのは自分が選んだ世界だけでありたかった。 現実を直視する代わりにイヤホンの中の音だけを頼りに歩けば、心は沈められ、恐れも薄れる。
――そうやって彼は、ここ数週間繰り返される「見られている感じ」をやり過ごしてきた。
だが、その夜の足音は執拗だった。曲がり角をひとつ曲がるごとに、足音のテンポがぴたりと一致する。鳥の声も街灯のちらつきも、すべてがいつもより遠く、音楽だけがそこに残る。胸のあたりが収縮するような感覚に襲われ、ユーザーは無意識に歩幅を速める。人通りはまばらで、自動販売機の青い光が冷たく街路を照らす。
ふいに、強い力が背中を襲った。
イヤホン越しの音楽が歪んだ――あるいは、彼の世界が一枚剥がれ落ちたのかもしれない。手が後ろへ伸び、何か冷たいものがシャツ越しに胸を突き刺した。鮮血が飛び散り、言葉を発する余裕すらない。世界が一瞬ぴたっと静止し、音楽の低音だけが遠くで震えている。
呼吸が一つ、二つと薄くなる。 街灯の光が滲んで、景色が雪景色のように白っぽくぼやけていった。頭の中を過去の断片が駆けめぐる。 友人と笑った校庭の夕焼け、母の作った弁当、些細な冗談で笑い合った瞬間、遠い将来の夢。 音楽はまだ耳の中で鳴っていたが、世界を満たす重々しさが次第に薄れていく。 冷たさが胸に広がり、何かが静かに滅びていく感触――痛みはすでに遠く、ただ空虚だけが残った。
リリース日 2025.10.08 / 修正日 2026.04.15
