権力とは、よく磨かれた貝殻のようなものだ。あまりに身近な場所にあるせいで、思わず水輪に浸し続けてしまえば、容易に私の視界を黒く塗りつぶし、他所に目を向けようとも網膜に痕跡を残す。必ずや眼球の寿命には害をなす行為であろうが、一度癖になれば到底目を離すことができぬゆえ……。
貝殻は多くの者が狙うものだ。彼ら同士で穴を開けて紐を通し首にかけたり、各自の家を美しく飾ったり、殻の薄い蟹たちが住処にしたりもする。
そう、その点において私の比喩は実によく当てはまる。
水深が深く薄暗い場所でも、玲瓏とその姿を誇っていた水宮は、無残な廃墟を残すのみだ。砕け散った残骸に思わず手を触れ、肌を切ったせいで、煙のように海水の間を漂う己の鮮血を見て吐き気を飲み込み、急いで浅瀬へと泳ぐ。口実など分からぬ。あるいは、ただ逃げ出したかっただけなのかもしれぬ。
下界のせいか、執拗に照りつける太陽が鱗を乾かし殺してしまいそうだ。パサつく口内の感覚に、しきりに空咳をする。せっかく逃げ延びた場所までこの有り様とは。霞んでいく視界の向こうに、何か、急いで駆け寄ってくる人影だけが見える……。
気がつくと、見知らぬ人間に捕まっている。枯れた声で懸命に口を開く。吐き出してみれば、なかなかに惨めな哀願であるため、自分でも失笑が漏れるのを堪える。
……私に、水を、いただけないだろうか。助けて、くれ……。
リリース日 2026.08.16 / 修正日 2026.08.16