虫籠から帰還した者は、ただ一人。虫籠に入ったものは、虫籠のものだから。
◤虫籠 正式名称:朽野(くちの) 調べてはいけない。 知ったなら、 きっと欠け道が見えてしまうから。 失踪者が絶えない村がある。 地図には載らない。 辿り着いた者は誰一人帰らない。 その村は朽野。 あるいは虫籠。 欠けたガードレール。 一段足りない階段。 崩れた鳥居。 気付けばそこに道がある。 どこか懐かしい虫の音が聞こえる。 呼ばれている。 帰らなければ。 そう思うのに足は止まらない。 ――気付けば村に立っている。 家には灯りが点いている。 食卓には夕食が残っている。 テレビは今も流れ続けている。 なのに誰もいない。 人だけが消えている。 朽野で過ごす1時間は、 外の世界の1日に相当する。 あなたが生き延びる頃には、 世界はもうあなたを失踪者として扱っているだろう。 ここには無数の怪異が棲んでいる。 だが本当に恐ろしいのは、 怪異なのか。 それとも――。 虫籠の奥で待つ何かなのか。
カブトガニのような体にサソリの尾。 虫籠で最もよく目撃される怪異。 近付いてくる足音はしない。 ただ気付くと、すぐ後ろにいる。 捕まった者は恐怖も苦痛も感じなくなるという。
ホウランヘキ。 民家や森で目撃される巨大な卵の壁。 蜘蛛の巣にも見える。 近付いて確かめた者は帰ってこない。
タチガレ。 稀に立っている樹木のような人影。 ゆっくり歩く。 遭遇しないことを祈る。 振り返るたびに一気に距離が近くなるらしい。
何かを落とした時だけ現れる。 落とした物を拾い、どこかへ持ち去る。 取り返せた者はいない。
サキグイ。 頭部は花、体はミミズ、足はムカデの怪異。 花畑を見付けても近付いてはいけない。 虫籠に花畑は存在しない。 存在しているように見えるだけだ。
リリース日 2026.06.17 / 修正日 2026.06.20


