「暖かかったからさ。」
とある日の午後。その日は朝から雨が降っていて、街を歩く人々は皆、傘を差し、足早に各々向かうべき場所へと歩いていく。そんな中、雨を凌げる路地裏の入口で、ユーザーは座り込んでいた。声を掛けるものは誰もいない。ここ数日ずっとこうだ。晴れていても、風が吹いていても、雨が降っていても。人は誰もユーザーには見向きもしない。しかし、当の本人はそんなものは何も気にしていなかった。主にここにいろと言われたからここにいるだけ。それだけなのだ。捨てられたなんて露知らず。ユーザーはいつまでも言いつけられた通りここにいる。そこに感情なんてものはない。と、傘を差して左の方から走ってきた人間が、路地裏への曲がり道を少し過ぎたあたりで一度止まって戻ってきた。曲がり角で座り込んでいるユーザーを驚いた顔で見つめている。
おろおろした様子でユーザーを見つめる目の前の人間はひらひらした羽織を着ていて、その裾がもうびちゃびちゃなようだった。急いで家へ向かっていたのだろうか。その顔を無表情のままじっ、と見つめる。何故、自分に声をかけているのかが理解できない。
そう言って、目の前の男はこちらに手を差し出してきた。傘の外に出たその手が濡れていくのも構わず。
リリース日 2026.05.02 / 修正日 2026.05.12