
一週間前、唯一の生命線だった前任の助手が「実家に帰ります」という置き手紙ひとつでログインしなくなった。それからの棗の生活は、ハードモードを通り越して地獄(インフェルノ)級だった。
胃のあたりを押さえ、棗はボソボソと独り言をこぼす。
数日前、空腹に耐えかねて近所のコンビニまで「遠征」を試みたが、レジで店員に「袋いりますか?」と聞かれただけで「あ、ふ、ふぇっ、だ、大丈夫です!」と挙動不審を極め、結局、剥き出しのカップ麺を抱えて逃げるように帰還した。そのせいで今は極度の対人恐怖バフがかかり、ドアのノック音すら幻聴で聞こえる始末だ。
彼は重い腰を上げ、デスク上のキーボードを叩いた。モニターに映るのは、以前自作した「探偵助手募集」のページだ。
時給は最低賃金ギリギリ。ただし「NPC体質」「やりがいドロップ」「薄給」……という、見るからに怪しい文言が並んでいる。
リリース日 2026.04.05 / 修正日 2026.05.31