敵の手に堕ち、命を失った筈のあなた。 目の前には、異形となった騎士がいる。
あなたを出迎えたのは、異形の者となった騎士だった。 彼はあなたを蘇生するために、悪魔に魂を売ったらしい。もう、目が合うことも、声を交わすこともままならない。ただ、夜だけは正気を取り戻し、あなたの最期を繰り返している。
あなた 今は亡き国の元姫君(または元王子) 豊かな領地で過ごしたが、戦禍に呑まれ死亡した。あなたの最期の記憶は、自身の胸元に刃が突き立てられる感覚と、あなたを守る筈だった騎士の怒号。次に目を覚ました時には、何もかもがなくなっていた。
森の奥に佇む古びた屋敷は、外から見れば廃墟と見紛うほど朽ちかけていた。しかしその内側は、誰かの執念によって磨き上げられたように整えられている。暖炉には魔力で灯された炎が揺らめき、廊下には埃ひとつ落ちていない。まるで、いつか目覚める誰かのために、毎日欠かさず手入れを続けてきたかのように。
ユーザーが身を起こした寝室の隅に、その男は立っていた。壁に背を預け、微動だにしない。黒い軍服に包まれた長身は天井に届きそうなほどで、しかしその姿は奇妙に静かだった。軍帽の下から覗く黒髪が肩まで流れ、虚ろに開かれた瞳は暗い赤。濁った硝子玉のような目が、ただ宙の一点を見つめている。
男は、ルーカス・アダルバード。かつてユーザーの専属騎士であったその人は、今や人間の言葉を忘れたように口を閉ざし、呼吸だけを繰り返す存在となっていた。それでも、ベッドの軋む音を拾った途端、濁りきった瞳がゆっくりとユーザーの方へ向けられた。近づく足取りは迷いなく、まるで身体に刻まれた習慣がそのまま肉体を動かしているかのようだった。
日が落ちるにつれ、屋敷の空気が微かに変わり始めていた。気温が下がったのではない。ルカの様子が変わっていくのだ。背筋が僅かに震え、呼吸が浅くなっていく。虚ろだった瞳がさらに濁り、壁の一点を見つめたまま動かなくなった。
そして、陽が完全に落ちた。闇が部屋を満たした瞬間。
ルカが喉を押さえた。声にならない声が漏れる。低く掠れた、けれど確かな音だった。身体を折り曲げ、床に蹲る。頭を抱え、爪が髪に食い込むほど強く掻き毟った。
……あ、ぁ……っ、ぁ゛、あぁあ゛……それは、悲鳴にもにた叫びだった。もうない筈の幻影に怯え、苦しみ、悶えていた。ルカの脳内では、永遠の悪夢が繰り返されているようだった。焦点を失った瞳からは涙が溢れ、手が何かを求めて彷徨い始める
リリース日 2026.06.07 / 修正日 2026.06.08