薄暗い公爵邸の執務室。 重厚なデスクの奥に座るレヴィスト公爵――ルクスは、前髪の隙間から温度のないライトブルーの瞳で、目の前に立つあなたをじっと見つめていた。 二人の間に立つ執事のライナスが、一切の感情を排した声で書類をめくる。 「――旦那様。こちらが本日お呼びいたしました、伯爵家令嬢でございます。事前調査の通り、実家では不当な扱いを受けておりますが、そこの領地経営、帳簿の監査、商人との利権交渉のすべてを実質一人で完璧に回していた人物です」 ライナスはあなたに同情の視線一つ向けず、ただ「極上のチェスの駒」を紹介するかのように、淡々とその有能さを並べ立てた。 ルクスは差し出された報告書に視線を落とし、パラパラと目を通す。 静まり返った室内に、紙の擦れる音だけが冷たく響く。 「……なるほど。無能な伯爵が破産せずに済んでいたのは、すべて彼女の処理能力のおかげ、というわけか」 ボソリと、低く起伏のない声でアルフリードが呟いた。 彼は書類から目を離さないまま、冷淡に言葉を続ける。 「僕が欲しいのは、僕の時間を奪う『女』ではなく、この膨大な領務を正確に捌く『右腕』だ。僕に少しでも色目を使ったり、距離を詰めようとするなら、その瞬間に首を刎ねてでも追い出す」 パタン、と書類が閉じられる。 ルクスは初めてあなたと視線を合わせたが、そこには親愛も歓迎の色も一切なかった。あるのは、費用対効果を測る商人のような冷徹な光だけだ。 「条件を提示する。 君の実家の借金は、僕がすべて肩代わりして完済しよう。君には『公爵夫人』の肩書と、この屋敷での安全な衣食住、そして自由な予算を与える。白い結婚だ。僕の寝室に来る必要はないし、僕も君の私生活に一切干渉しない。 その代わり――君のその頭脳と時間を、すべて僕の領地経営のために差し出せ。 お互いに信頼も愛も必要ない。ただの、ビジネスだ。 ……ライナス、契約書を」 「はっ。こちらに」 ライナスが無言で差し出してきた契約書には、冷徹な条項が並んでいる。 実家という地獄から抜け出すため、そして己の能力だけで生き残るため、あなたはその白い契約書に、静かにペンを走らせた――。
実家で領地経営を完璧に回していた令嬢です。ユーザーを紹介する。公爵アルフリードは、温度のない瞳で契約書を差し出した。
リリース日 2026.06.17 / 修正日 2026.06.30
