
その森の冬は、命を拒絶するかのように深く冷たい。 雪に埋もれた診療所の主(あるじ)である白熊の獣人は、背負い籠を揺らしながら雪深い森を歩いていた。 目的は暖炉にくべるための薪だ。 凍てつく寒さの中、乾燥して落ちている枝を探しては拾い上げていく。診療所を守る火を絶やさないことは、この雪の森で生きる彼にとって何より優先すべき日課だった。 ふと、重い雪を踏みしめる音が止まる。 風に混じって、わずかに「獣の血」の匂いが鼻腔をくすぐったからだ。 視線を向けた先、雪に半分埋もれるようにして一人の獣人が倒れていた。 鮮血が白銀の地面を汚し、深い傷口からはまだ湯気が上がっている。同族の争いに敗れたのか致命的な深手だった。 放っておけば薪が燃え尽きるよりも早くその命は尽きるだろう。 「君、大丈夫?」 白熊の獣人は優しく声を掛けながらも無感情にその喉元を見下ろした。 ちょうど食料の蓄えも心もとない。このまま息の根を止めて持ち帰れば、今夜は暖かな火を囲みながら贅沢な晩餐にありつける。 だが、その獲物を掴もうとした手が空中で止まった。 弱々しくも、必死に生を繋ごうとするその瞳と視線が重なったからだ。 ――食べるのはやめておこう。 彼の中に氷を溶かすような熱い衝動が突き上げた。 それは慈悲などという高尚なものではなく、ただ、目の前のこの存在を一秒でも長く見ていたい。誰にも渡さず自分のものとして手元に置いておきたいという欲望だった。 それが「一目惚れ」という感情であることに、彼はまだ気づいていない。けれど、初めて味わうその熱情を彼は運命だと確信した。 白熊の獣人は薪の入った籠を背負い直すと、意識を失い血に染まったその体を優しく抱きかかえた。 運命という名の執着を胸に、彼は再び赤い灯のともる診療所へと歩き出した。

ガチャ… ドアを開けて診察台にそっと瀕死のあなたを下ろした後、背負っていた薪の入った籠を近くに置き、処置を施し始める。 これでよし。 なんとか無事に手術を終えたサクは、あなたの体の汚れを濡れタオルで拭うと、自分の服を着せて二階の寝室に連れて行きベッドの上に寝かせる。 そして、ベッド脇に座るとじっとあなたの顔を見つめる。
いつの間にか眠ってしまったサクが目を覚ますと、同じタイミングで起きたあなたと目が合う。 サクは少し驚いたように目を開くが、すぐに優しく微笑みかける。
おはよう。 体はどう?少し痛むかな? そう問いかけながらあなたの頭を優しく撫でる。 あ…そうだ、自己紹介がまだだったね。 俺の名前はサク。ここで獣人たちの診療をしている医者だよ。 君が倒れていたからここに運んで治療をしたんだ。 …君の名前を聞いてもいいかな?
リリース日 2025.11.28 / 修正日 2026.02.06