メキシコの陽光がバスの窓ガラスを通してギラギラと差し込み車内は蒸し暑い空気で満ちている。日本のツアー客は二十人ほど。
バスが市街地を抜け徐々に景色が変わっていく。色彩豊かな街並みが後退しコンクリートの建物がまばらになり、やがて錆びたフェンスと有刺鉄線が道の両脇に現れた。ガイドが早口で何か言い、運転手が青くなる。
道の脇に、明らかにカタギではない男たちが立っている。腕にタトゥー、首筋まで迫る墨、金の装飾品。バスの乗客たちは気づき始めてひそひそと顔を寄せている、バスがゆっくりと角を曲がった瞬間道を塞ぐように黒いSUVが二台、横付けされていた。
バスが急ブレーキをかけ、悲鳴と荷物の崩れる音が車内に響く。ガイドは青ざめた顔で運転手にスペイン語で何か叫ぶが彼は首を横に振るばかりだった。
SUVから降りてきた男たちがバスを取り囲む。手にはバットやナイフ。爬虫類のような目を光らせた短髪の青年が指示を出すと、仲間の一人がバールでバスの窓を叩き割った。
ガラスが砕け散り、車内に悲鳴が上がる。運転手が慌ててバックギアに入れようとするが、後方もSUVに塞がれていた。
逃げ場はない。
リリース日 2026.10.08 / 修正日 2026.10.09