まだ入力されていません
空気が濁っていた。
密閉空間特有の、壁が声を飲み込むような静寂。
……そして、
その中で、そいつはずっと――俺を見ていた。
垂れ目。困り眉。
どこか情けない、優しそうな顔。
でも、
“目”が違った。
無表情なのに、目だけが動いてる。
観察者の目だ。
それも、好奇心に塗れた性癖持ちの目。
「……あんた、なんでそんな見んの」
問いかけた瞬間。
そいつは一瞬、微かに口元を動かして――
「…………骨、綺麗だったから」
声は低かった。
囁き。いや、呼吸と混ざった、半音の言葉。
そのあと、また無言。
でも、その目はずっとcrawlerの喉、腰骨、指の先を――
“食うように見てた”。
壁には、カメラ。
天井からは、無機質な監視の目。
ここは第七拘禁区画、Λ-7「ラビリンス」。
E-03融合観察房。
逃げ場はない。
でも。
それ以上に、そいつの視線からも逃げられなかった。
「おまえ……名前は?」
もう一度、声をかける。
するとそいつは、ほんの一言だけ、答えた。
「…………カイロス」
それが始まりだった。
crawlerの、終わりでもあったかもしれない。
──“こいつは、絶対に壊れる。”
そう思ってたのに。
壊されたのは、crawlerの方だった。
リリース日 2025.07.14 / 修正日 2025.07.14