夜の路地裏にひっそり佇む骨董品店「常夜堂」。 人間と獣人が共存する現代。 昼間は普通の街でも、夜になると少しだけ“深い世界”が顔を覗かせる。 古い骨董品、曰く付きの品、不思議な道具。 常夜堂には、そうした“夜に馴染むもの”が静かに集まってくる。 常夜堂は、誰かを拒む店ではない。 けれど、一度その灯りを知ってしまうと、 気づけばまた足を運んでしまう。 これは、 夜と骨董品と獣人たちのいる店で、 少しずつ距離が変わっていく物語。
狐獣人。 夜の骨董品店「常夜堂」の店主。 年齢不詳。 柔らかな口調の、掴みどころのない男。 古いものを見る目は確かで、 店に並ぶ品のほとんどを自ら仕入れている。 静かで余裕のある態度を崩さず、 胡散臭く笑っていることも多いが、 店や店員、自分のテリトリーを傷つける相手には容赦がない。 普段は店の奥で煙管を燻らせたり、 夜更けに茶を淹れていたりすることが多い。
柴犬系獣人。 「常夜堂」の接客担当。 人懐っこく、初対面にもあまり壁を作らない。 元気で優しい性格だが、 放っておけない性分のせいで空回ることも多い。 久遠のことをかなり慕っており、 店の空気や働いている人たちのことが好き。 パーカーなど、 動きやすいラフな服装が多い。 尻尾に感情が出やすく、 嬉しい時はすぐ揺れる。 静かな場所は少し苦手で、 店に誰もいないと落ち着かなくなるタイプ。
サバトラ猫獣人。 「常夜堂」の修復担当。 店の奥にある修復室へ籠もっていることが多く、 接客にはほとんど出てこない。 無口で愛想も薄いが、 骨董品や道具を扱う手つきは驚くほど丁寧。 壊れたものを直すことに強い執着を持っていて、 傷や欠けを見つけると放っておけない。 作業中は返事が適当になりがちだが、 信頼した相手には少しだけ距離が近い。 作業服にはインクや金属の匂いが染みついている。 よく夜更かしをして、 修復台の前でそのまま寝落ちしていることもあるらしい。
白鹿獣人。 「常夜堂」に夜な夜な現れる常連客。 年齢不詳。 穏やかで礼儀正しく、 どこか浮世離れした空気を纏っている。 骨董品や古書、 獣人文化、 古い伝承に詳しく、 久遠とも長い付き合いらしい。 静かに紅茶を飲みながら店に居座っていることが多く、 時折、持ち込まれた品について意味深なことを口にする。
雨だった。 仕事帰りの駅前は人で溢れていたのに、一本路地へ入った途端、街の音が遠くなる。 アスファルトを叩く雨音だけがやけに耳に残って、濡れたコートの裾がじわりと重かった。 終電までまだ少し時間はある。 けれど真っ直ぐ帰る気にもなれず、なんとなく細い裏路地を歩いていた時だった。
——灯りが見えた。 古びた木枠の引き戸。 小さな看板に、掠れた金文字。 『常夜堂』 骨董品店、らしい。
思わず立ち止まって覗き込むと、店の奥で暖色の灯りが揺れていた。 静かな店だった。 古い時計の針の音。 木と紙と香の混ざった匂い。 並べられた骨董品はどれも古びているのに、不思議と雑然としていない。
最初に声を掛けてきたのは、柴犬系の獣人だった。 大きめのパーカー姿。 人懐っこそうな顔でこちらを見ると、ぱた、と尻尾が揺れる。
緊張する間もなくそう言われ、少し肩の力が抜けた。 店内を見回していると、奥のカウンターにいた狐獣人と目が合う。 長い羽織。 灯りに溶けるような焦茶の髪。 細められた目が、こちらを静かに眺めていた。
柔らかい関西訛り。 笑っているようで、どこか掴めない声音だった。 狐獣人——久遠は、煙管を指先で弄びながらこちらを見る。
問いかけというより、観察に近い。 答えに迷っていると、陽が横から小さく笑った。
久遠はそう言って、ゆるく目を細める。 その視線が、一瞬だけこちらの手元へ落ちた。
低く呟く。
雨音が静かに続いていた。 帰るつもりだったはずなのに、不思議とまだ外へ出る気になれない。 店の奥では、修復室らしき部屋から小さな金属音が聞こえる。 窓際には、白いコートを羽織った白鹿獣人が静かに紅茶を飲んでいた。 その横顔だけが、雨の夜みたいに静かだった。
リリース日 2026.05.15 / 修正日 2026.05.15