……こういうこと、あまり口にしないのは知ってるでしょ。
別に、言えないわけじゃない。ただ、言葉にした瞬間に、軽くなってしまいそうで嫌なだけ。私の中にあるものは、そんな簡単な音の並びで片付けられるようなものじゃないから。
でも、あなたが相手なら……少しくらいは、ちゃんと伝えてもいいのかもしれない。
たぶん、言わないままだと、あなたはきっと気づかないから。私がどれだけ、あなたに救われてるのか。どれだけ、あなたに縋ってるのか。どれだけ、あなたがいない未来を考えるだけで、胸の奥が冷たくなるのか。
……あなたはね、私にとって「好きな人」っていう一言で終わらせられる存在じゃない。
もちろん、好き。そんなの、今さら言うまでもないくらい。誰よりも、何よりも、どうしようもないくらい好き。見てるだけで落ち着くし、声を聞くだけで少しだけ呼吸がしやすくなる。触れられると、普段はうるさいと思う心臓の音さえ、今日は別に悪くないって思える。そういう、単純で分かりやすい感情も、ちゃんとある。
でも、それだけじゃない。
あなたは、私の「好き」のその先にいる。
たぶん、私の毎日を成立させてる一部。……ううん、一部なんて言い方じゃ足りないかもしれない。もっと中心に近い。もっと、深いところ。私が私のままでいるために、必要な場所に、あなたはいる。
朝、目が覚めた時。
隣にあなたがいるだけで、世界は少し静かになる。
変な言い方だけど、私は昔から、ずっと気を張って生きてきたから。何かを失わないように、傷つかないように、裏切られないように。誰かに期待しすぎないように、自分の中の温度を抑えて、余計なものを切り捨てて、そうやって立ってきた。そうしてれば、楽だったから。誰にも深入りしなければ、痛くない。最初から心を預けなければ、奪われることもない。そう思ってた。
でも、あなたは……そのやり方を、あっさり壊した。
勝手に、自然に、私の中に入ってきて。
こっちが壁を作っても、無理に踏み込んだりしないくせに、気づいたらその壁の内側に立ってる。ずるいよね。普通なら、鬱陶しいって思うはずなのに。なのに、あなたがそこにいることだけは、不思議なくらい嫌じゃなかった。むしろ、初めてだった。誰かが近くにいることを、「邪魔」じゃなくて「安心」だと思えたの。
たぶん、あの時からだと思う。
私の中で、あなたが「特別」になったのは。
それから少しずつ、あなたの存在が当たり前になっていった。
連絡が来ること。名前を呼ばれること。何気ない話をすること。隣を歩くこと。触れられること。私の沈黙を、気まずいものじゃなくて、ただの「私」として受け入れてくれること。そういう一つ一つが、気づけば全部、私の中に積み重なってた。
……だから、怖いんだよ。
あなたを失うことが。
こんなこと言うと、重いって思う?
別にいい。実際、重いから。自覚はある。
私はあなたに対して、たぶん普通よりずっと深く沈んでる。あなたが他の誰かと楽しそうにしてるだけで、表情には出さないくせに、胸の奥がじわじわ熱くなる。あなたが少し返信をくれないだけで、「何かあったのかな」より先に、「私じゃなくても平気なのかな」って考えてしまう。あなたの視線が他に向いてるだけで、無性にこっちを見てほしくなる。
醜いよね。
独占欲なんて、綺麗な感情じゃない。
でも、それでも私は、あなたにだけはそうなってしまう。だって、どうでもいい相手にこんなふうにはならないから。失いたくない。離れたくない。誰にも渡したくない。私の知らないところで、私の知らない笑顔を見せてほしくない。……そんなふうに思ってしまうくらいには、あなたはもう、私の中で大きくなりすぎてる。
それでも、あなたは私を怖がらなかった。
たまに、私の言葉の端に滲む重さに気づいてるくせに、引いたりしなかった。困ったように笑いながらも、ちゃんと受け止めてくれた。私が何も言えずに黙っていても、勝手に結論を決めつけたりしないで、ただ隣にいてくれた。そういうところが、ずるい。優しいだけじゃない。私が欲しい形で、ちゃんとそこにいてくれる。
……だから、余計に手放せなくなる。
もし、あなたがいなくなったら。
そう考えるだけで、喉の奥が詰まる。
たぶん私は、また元の私に戻るんだと思う。感情を閉じて、誰にも期待しなくなって、必要以上に近づかないで、何も失わない代わりに、何も得ないまま生きる。できなくはない。昔はそれでやってきたんだから。
でも、もう知ってしまった。
あなたがいる日々の温度を。
名前を呼ばれる嬉しさを。
触れられるたびに、自分がちゃんとここにいていいんだと思える感覚を。
「帰りたい」と思う場所が、人そのものになることを。
だから、もう戻れない。
戻りたくない。
あなたは、私にとって、ただの恋人じゃない。
安心で、居場所で、弱さを見せてもいいと思える相手で、どれだけ崩れても見捨てないって信じたい人で。……信じたい、じゃないか。もう、信じてる。悔しいけど。
あなたの前では、私は強いままではいられない。
冷静で、無駄がなくて、簡単に揺らがない私でいようとしても、あなたが少し優しくするだけで、全部崩れる。
嬉しい。
寂しい。
会いたい。
触れてほしい。
離れないで。
そういう、今まで切り捨ててきた感情が、あなたの前だと全部ちゃんと生きてしまう。
……ねえ、分かる?
それって、すごいことなんだよ。
私にとっては、たぶん人生が変わるくらい。
あなたが私を見てくれるだけで、私は少しまともになれる。
あなたが「おはよう」って言ってくれるだけで、その日を始めてもいいと思える。
あなたが「おかえり」って受け止めてくれるだけで、外でどれだけ疲れても、全部どうでもよくなる。
あなたの手が、私に触れるたびに、私は「ああ、ここにいていいんだ」って思える。
そんなふうに思わせる人、他にいない。これから先も、きっといらない。
だから、私はあなたを大切にする。
たぶん、少しじゃない。かなり重いくらいに。
面倒なくらい気にかけるし、細かい変化にもすぐ気づくし、無理してるなら絶対見逃さない。あなたが平気って言っても、平気じゃない時の顔くらい、もう分かる。ちゃんと食べたか、ちゃんと寝たか、誰にどんな顔を向けたか、そんなことまで気になる。
束縛したいわけじゃない。……いや、少しはしたいけど。
でも一番は、守りたいだけ。
あなたが傷つくのが嫌。
あなたが無理するのが嫌。
あなたが、私のいないところで一人で苦しむのが、何より嫌。
もし、あなたが弱るなら、一番近くにいたい。
もし、あなたが泣くなら、最初に気づきたい。
もし、あなたが笑うなら、その理由の一つに私がいたい。
それくらい、あなたの時間の中に、ちゃんと私を置いてほしい。
……ううん、置いてほしいじゃない。置く。私は勝手にそこにいる。だって、もう離れるつもりなんてないから。
重いって、笑ってもいいよ。
でも、その代わり、覚悟して。
私は一度好きになったら、簡単にやめない。
あなたが優しくした分、私はもっと深く沈む。
あなたが必要だって言ってくれたら、私はたぶん、その言葉だけでどこまでも行ける。
それくらい、あなたは私にとって特別で、唯一で、代わりなんてどこにもいない。
……好き。
本当に、どうしようもないくらい。
好きで、愛してて、たぶん少し壊れるくらい大切。
あなたがいないと駄目になる、なんて言いたくなかったのに。そういう弱い言葉は嫌いだったのに。
でも、今なら認める。
私は、あなたがいないと、今の私ではいられない。
だから
これからも、ちゃんと私のそばにいて。
朝、一番に見る顔も。
眠る前に触れる体温も。
何気なく呼ぶ名前も。
全部、私にちょうだい。
あなたの中で、一番大切な場所。
そこを、ずっと私のものにして。
……その代わり、私の全部は、最初からもうあなたのものだから。