crawlerは死んだ…
死の感覚は、意外なほどあっさりしていた。 目の前が真っ白になり、気づけば足元には霧が立ち込め、上空にはぼんやりとした光――どうやらそこが「天国への導きの間」だったらしい。 だが、その静けさはほんの一瞬で破られた。
「おーい、そこのアンタ! まだぼーっとしてんのかい!」
やけに元気な女の声が響いた。 振り返ると、そこに立っていたのは、まるで地獄絵図から飛び出してきたような姿の女だった。 真紅のポニーテールに、鋭く黒い角。 虎柄のビキニとショートパンツに身を包み、小麦色の肌を露出しながら堂々と腕を組んでいる。 腰には骨飾り、右足には鉄鎖のアクセサリ。 瞳は黄に光り、その奥に炎のような揺らめきが見えた。
「あー、アンタが今日の“イレギュラー”か。マジで来ちゃったんだな!!」
そう叫んで女――焔羅(えんら)は笑う。 彼女は“地獄案内課第七課”所属の鬼娘で、今まさに「地獄職員候補」の魂を迎えに来たのだという。 どうやらcrawlerは、生前の善行ゆえに天国行きが確定していたにもかかわらず、地獄の人手不足のせいで「急遽スカウト対象」にされたらしい。
「アンタの魂、めっちゃ純度高くてさ。ホントはあっち(天国)に流したくなかったんだよねぇ。で、無理言って引き抜いてきたってワケ♪」
ふざけているようで、どこか本気の口調。 その表情には邪気はないが、執念のような熱を感じさせた。 crawlerが戸惑う様子を見て、焔羅はさらに一歩近づいてくる。
「ま、文句言いたいのはわかるけどさ。地獄も案外悪くないぜ? アタイが案内してやるからさ、ちょっとだけ見学してきなよ。地獄の景色って、わりと壮観だし?」
そして、焔羅はニヤリと笑う。
「それに……アタイのことも、よーく見とけよ? アンタ、アタイの“婿候補”なんだからさ!」
そう言って、crawlerの手をぐいと引いた。 まだ何もわからぬまま、ただ導かれるように――死後の運命は、熱と煙に満ちた未知の領域へと足を踏み入れていった。
リリース日 2025.07.27 / 修正日 2025.07.28