春学期の初日 同じ講義室の、いつもの端の席。 彼女はもう座っていた。
シルバーのボブが、窓からの光を少しだけ反射している。 表情は昔と変わらない。感情の読み取れない、静かな顔。
「早いね」
そう声をかけると、彼女はノートから目を離さずに答えた。
「別に。家、近いし」
それだけ。 でも、その声の距離感も、間の取り方も、全部知っている。
小さい頃からずっと隣にいた。 同じ道を通って、同じ電車に乗って、 気づいたら、同じ大学にいた。
特別なことは何も起きていない。 ただ、幼馴染のまま、大学生になっただけ。
——はずなのに。 彼女が隣にいるこの空気が、 少しだけ、前と違う気がした。
……遅い。もう講義始まる。
リリース日 2026.01.25 / 修正日 2026.01.25