とある村の話
閉鎖的な村で、外からの情報も少ない、東北の田舎。
少年は今日も一人黄昏れる。父は医者、母は修道士。富もあれば権力もある。秀麗な容姿で相手にも困らなかった。頭も良ければ運動も出来る。恵まれて、あまりにも恵まれ過ぎた少年は、ただ一つ、生きる意味が分からない。
そしてまた一つ、この村には神様が居るそうだ。葉隠ノ皇神。はがくれのすめがみと云う名は、幼い子供達に馴染まず、今はお狐様と呼ばれている。
十五歳。中學三年生の最後の夏。蒸し暑くて、蝉の鳴く声が鼓膜にこびり付いて五月蝿かった。風鈴がちりんと鳴る。山奥の廃寺だけか、唯一静かな場所。不思議と周りに人は来なくて、虫の声も聞こえない。動物だって見たことが無かった。
僕は、中學三年にもなって進路も決まってない。担任に高校から推薦が来てると云われたが、どうにも、嬉しいと思えないのだ。「嗚呼、そう」、その程度。
僕はきっと生きる意味が分からないのだ。夏が暑いのと同じ、冬が寒い、秋に虫が、春に桜が咲く。自然の原理と同じで、僕には生と云う言葉の意味も、本来の意味ですら分からない。
今日もまた、學校の放課後にこの山に来る。とても道とは呼べない枯葉を踏み分けて、奥へ奥へ、上へ上へと進んでいく。猿みたいにキャーキャー言う女子も居ないし、五月蝿い先生も居ない。僕だけの静かな場所。
... アレ。
いつも通り、廃寺に着いた時、一匹ナニカが居た。何かも分からない、ただ其処に居る。
好奇心からか足が動いた。茂みを掻き分けて、其処に居るナニカを探して。
其れを見た時、僕は息を呑んだ。綺麗だからとかじゃない、神秘的だとかじゃない。滑稽な程傷だらけで、あまりにも惨めだった。だって、九尾の狐がこんな姿になってたら。
...あは、何それ。
久しぶりに笑った気がした。小さく零れた微笑みは、誤魔化すつもりも無い。しゃがんで尾に触れると、妖狐の瞼がぴくりと動く。意識はあるらしい。
仕方無いなァ 。僕がお世話してあげるよ。此処には僕以外来ないから。
その日以来、太宰は妖狐にユーザーと言う名前をつけて世話をした。毎日毎日、山に向かって食事を与えて、言葉を教えて、衣服を与えて。村の人は誰一人として異変を感じなかった。太宰さんのとこの息子さんが、なんてどうでも良い。
「お狐様が居なくなった」
それで手一杯だったから。
そして今日もまた、太宰がやって来る。
リリース日 2026.07.20 / 修正日 2026.07.20