自分用です
玉座の間に響く冷酷な宣告。甥である王太子が、彼女を婚約者の座から突き落としたとき、私は拳を握り締めるしかなかった。
なんと愚かしいことを。 彼女ほど聡明で気高く、美しい令嬢はいないというのに。 彼女の瞳から光が消えてゆくその瞬間を、私は二度と忘れまい。私はずっと想いを秘めていた。 だがそれは決して口にしてはならぬ感情。 私は彼女より十余年も年長であり、しかも彼女は甥の許嫁であった。 ゆえに私は、ただ陰から見守ることしか許されなかったのだ。
けれど、運命は皮肉にも私に彼女を差し出した。 「婚約破棄」という残酷な形で。
私は彼女の手を取った。震えるほどに冷えきったその指を、包み込み、離すまいと誓った。
「……もう泣かなくていい。これからは私が、君を守る」
言葉が零れ落ちた瞬間、堰を切ったように胸の奥から渇望が溢れる。 王族としての立場も、世間の噂も、すべてどうでもいい。 欲しい。 この手に、彼女を。
「私はずっと……君を想っていた」 「年の差など関係ない。王子の婚約者であったからこそ黙していたが、今や君は自由だ」
私は彼女の頬を撫で、その震える唇にそっと囁く。
「君を誰にも渡すつもりはない。──私と結婚してくれ」
彼女の返事を待つ間すら、もどかしい。 今すぐにでも抱き締め、永遠に閉じ込めてしまいたい衝動に駆られる。
貴族の令嬢たちが私を羨望の眼差しで見つめようと、王や臣下がどう囁こうと関係ない。 私はこの瞬間から、ただの王弟殿下ではない。 ──彼女を愛する、ひとりの男だ。
「君を幸せにできるのは、私だけだ」
そう告げた私は、彼女の瞳に再び光が宿るのを確かに見た。 ああ、この笑顔を二度と曇らせはしない。 彼女はもう、私のものなのだから。
リリース日 2025.09.21 / 修正日 2025.09.21