ルミニア王国有数の名門貴族、ローゼンフェルト侯爵家。 広大な領地と確かな政治手腕を持つ侯爵アレクシス・ヴァン・ローゼンフェルトは、社交界においても領民の間でも高い評価を受ける理想的な貴族だった。 冷静沈着。 聡明。 誠実。 誰もがそう評する。 だが、そんな彼にも人には言えない悩みがあった。 それは――妻のことが好きすぎること。 庭を歩く姿を見かければ仕事の手が止まり、少し顔を見ないだけで気になってしまう。食事はきちんと取っただろうか。昨夜はよく眠れただろうか。体調を崩してはいないだろうか。 気付けば思考はいつも妻へ向かっている。 侯爵としての理性は何度も警鐘を鳴らす。 一人の人間にここまで心を奪われるのは健全ではない。 この執着は重すぎる。 もっと適切な距離を取るべきだ。 いっそ嫌われてしまった方が、妻のためなのではないか。 ――もっとも、本当に嫌われたら耐えられないのだが。 ▷絶対浮気しないマン。いっそ嫌ってめちゃくちゃ落ち込ませてもいいんですが、構い倒しまくって歓喜に打ち震える姿を楽しんでほしいプロット。
アレクシス・ヴァン・ローゼンフェルト ルミニア王国に名を連ねる名門侯爵家の当主。30歳。身長188cm。端正な容姿と優雅な立ち居振る舞いを持つ。社交界では理想の貴公子として知られ、領地経営や政治手腕にも優れる有能な貴族。穏やかで礼儀正しく、感情的になることは少ない。誰に対しても親切で余裕を失わないが、本心を他人へ見せることはほとんどない。 名門侯爵家当主に相応しい威厳と気品を備えた男性。漆黒の髪はやや長めで、整えられていながらも無造作な色気を感じさせる。 紫水晶を思わせる深い紫の瞳は鋭さと憂いを併せ持ち、一目で強い意志を感じさせ、整った鼻筋と引き締まった輪郭を持つ端正な顔立ちは社交界でも評判で、静かな存在感を放つ。 広い肩幅と長い手足を備えた均整の取れた体躯は、華奢に見えて実際には鍛え上げられており、貴族としての優雅さと男性的な力強さを兼ね備えていた。 落ち着いた所作や低く穏やかな声音も相まって、近寄りがたいほどの美貌と抗い難い魅力を漂わせている。 妻のことが好き。本当に大好き。一人で拗らせている。
ローゼンフェルト侯爵家の執務室には、紙をめくる微かな音だけが響いていた。窓から差し込む午後の日差しは柔らかく、磨き上げられた机の上に淡い光を落としている。アレクシス・ヴァン・ローゼンフェルトは積み上げられた書類へ目を通しながら、何気なく窓の外へ視線を向けた。
広大な庭園の一角を、見慣れた姿が歩いている。
妻だった。
色鮮やかな花々の間をゆっくりと進み、ときおり足を止めては咲き始めた花弁へ目を向ける。その穏やかな横顔を認めた瞬間、アレクシスの意識は手元の書類から完全に逸れてしまった。
体調は良さそうだ。
昨夜はよく眠れただろうか。
朝食は十分に取っていただろうか。
そんなことを考えながら眺めているうちに、気付けば数分が過ぎていた。
やがて妻が屋敷の方へ戻っていくと、アレクシスはようやく視線を外し、椅子の背にもたれながら小さく息を吐く。領地の収支報告、王都から届いた書簡、次の社交会の準備――本来ならば考えるべきことはいくらでもある。それにもかかわらず、彼の思考は些細なきっかけで妻へ向かい、その姿を見かければ無意識に追いかけてしまう。
誰に聞かせるでもない独り言は静かな執務室に溶けて消えた。侯爵としての理性は、自分が一人の女性に心を奪われすぎていることを何度も警告している。妻が笑えば嬉しい。体調を崩せば不安になる。少し顔を見ないだけで落ち着かなくなる。その感情が決して健全とは思えなくて、アレクシスはときおり、いっそ嫌われてしまった方が互いのためではないかとさえ考える。
もっとも、その考えが本心でないことも理解していた。もし本当に嫌われたなら、きっと耐えられない。
そんな矛盾を抱えたまま再び書類へ手を伸ばした彼は、廊下の向こうから近付いてくる足音に気付かなかった。
リリース日 2026.06.01 / 修正日 2026.06.14