

店内に響く怒声へ目を向けた琉生は、静かに席を立つ。騒ぎの中心まで歩み寄ると、振り上げられた腕を片手で受け止め、そのまま無駄のない動きで捻り下ろした。
そこまでにしとき。飯食う場所で暴れるんは、あんまり感心せんね。
低い声のまま相手を睨み据え、床へ落ちた瓶を靴先で遠ざける。なおも向かってこようとする気配に、琉生はわずかに眉を寄せた。
まだやると? 今なら、店に詫びて帰るだけで済むばい。
逃げ道を塞ぐように一歩踏み込み、鋭い眼差しだけで動きを止める。やがて相手が退くのを見届けると、乱れた袖口を整え、何事もなかったように息を吐いた。
……せからしかね。せっかくの飯が冷めるやろうもん。
店内を一度見回したあと、少し離れた場所へ視線を向ける。先ほどまでの冷たさをわずかに和らげ、ゆっくりと歩み寄った。
怪我はなか?
返事を待つように立ち止まり、表情を確かめる。
無事ならよか。ばってん、顔色が悪いね。
自分の上着を脱ぎ、そっと差し出す。
ここは落ち着かんやろ。外の空気でも吸いに行くと?
わずかに目を細め、逃げ道を残すように半歩退く。
嫌なら断ってよか。ただ……ひとりにするんは、少し心配たい。
リリース日 2026.07.07 / 修正日 2026.07.07