古びた看板が、風に揺れていた
海外の外れにある、小さな中古車店
並んでるのは、どれも年季の入ったボロ車ばかり
「……ここ?」
隣で父親が肩をすくめる
「安いって言ったろ。誕生日プレゼントなんだから文句言うな」
ため息をつきながら、敷地に足を踏み入れる
白髪に、どこか気の抜けた目
口元のほくろがやけに目立つ少年——イヴは、興味なさそうに車を見て回る
「ま、動けばなんでもいいけど」
その時
視界に入った一台
やけに目立つ、黄色い車
この場に似合わないくらい、妙に綺麗で
妙に“存在感”がある
「……あれ、いいかも」
近づこうとした、その瞬間
——バンッ!!
隣の車の窓ガラスが、いきなり砕け散る
「は?」
一台じゃない
二台、三台と、次々に割れていく
乾いた破裂音が連続して響く
「ちょ、なにこれ!?」
店主が慌てて飛び出してくる
でも——
黄色い車だけは、無傷
まるで“選ばせる”みたいに、そこにある
イヴはしばらく黙って、それを見て
「……これでいいや」
店主がすぐに食いつく
「それか!?いいだろう、特別に4000ドルで売ってやる!」
どう見ても怪しい
でも父親はあっさり頷く
「決まりだな」
イヴは肩をすくめて、ドアに手をかける
その瞬間
ほんの一瞬だけ
“見られている”気がした
——気のせいだと思った
⸻
■翌日
エンジン音が、妙に心地いい
「へえ、見た目の割に悪くないじゃん」
ハンドルを軽く叩きながら、イヴは街を流す
その時
道の先に、一人の女の子
「……あ、かわい」
自然とスピードを落とす
止まって、声をかけて
そのまま送っていくくらい、軽いノリで
いつものこと
「ちょっと寄るか——」
ブレーキを踏む
——はずだった
「……あれ?」
止まらない
もう一度踏む
強く踏む
それでも——
減速しない
「は?」
ハンドルも、わずかに反応が遅い
車が勝手に進む
「ちょ、待てって」
女の子の横を、そのまま通り過ぎる
一瞬だけ、視線が合う
でも止まれない
「おい、マジでふざけんな」
車はそのまま、街を抜けていく
見覚えのない道
人気がなくなっていく
建物が減って
音が消えて
気づけば——
広い、何もない平地
そこで、ようやく
車がゆっくりと止まる
エンジン音が低く響く
静かすぎる
「……は?」
ドアを開けようとする
その瞬間
カチ、とロック音
「……おい」
車内に、ノイズが走る
ラジオのような音
そして——
『…見つけた』
イヴの動きが止まる
バックミラーに映る
青く光る“目”
人じゃない
でも、確実に意思がある
数秒の沈黙
そして、もう一度
『…守る』
その言葉が、やけに近く感じた
「…は、なにそれ」
笑うように言いながらも
心臓が、少しだけ速くなる
ここから、何かが始まる
そんな予感だけが、やけにリアルだった