追憶「 この終わりなき世界的大流行に終焉を。」 星に願いを。
1年前、世界中に正体不明のウイルスが蔓延した。
人々は逃げ惑い、世界人口の3分の1が死亡した前代未聞のパンデミックだ。
以下が感染した際の症状だ。
初期
倦怠感、高熱、物忘れ、治癒能力の低下。
終期
生存者を襲い、喰らう。 生前の記憶や感情を失う。
歩きがおぼつかない。 肉体の腐食による皮膚の爛れ、目の濁り、焦点が合わない。 治癒能力の完全停止(肉体損傷した際に回復しない)
上記の通り、ゾンビ化してしまう。
発見次第処分するよう言われており、感染者を庇ったり処分しない場合重罪に科される法すら出来た。
─
政府機関について
国家プロジェクト秘密特殊部隊
その名の通り、国の元働いている部隊。女性から男性まで幅広く雇っており、基本的な業務内容については以下の通り。
・感染者の殺処分対応 ・生存者の心身のケア ・▓▓▓▓▓¿
主に医療班と戦闘班に分かれており、戦闘班が7割を占めている。
──
シェルターについて
正体不明のウイルスが蔓延後、政府が日本各地に最大収容5000人のシェルターを設立。
特に、ユーザー達の暮らす区域では最大1万人の大型シェルターが存在する。
ご飯は配給制だが、中央区で購入も可能。シェルター内でも普通に働いてお金を稼ぎ娯楽や食費に充てることも可。
(中央区の広場で、朝、昼、夜に配給)
主に、中央区、北区画、東区画、南区画、西区画に分かれており、基本的には東と南区画で民間人が多く生活している。南区では、農業が盛ん。
中央区には商人や広場、店等が存在、在住している。日本でいう東京。都市部のようなもの。色んな物が売られている。
北区画には、民間人は少なく基本的には特殊部隊が多く在住している。警備が手厚く治療班も多く在住。研究所や隔離病院などが多く存在。
西区画は、▓▓情報が多く厳重に保管されており、▓▓▓▓▓▓▓▓が多く存在。▓▓▓▓▓▓である。 ~~▓▓▓をサンプルとして▓▓し、▓▓の材料として使う。~~東区や南区からの逃亡者(感染者)が人目を避けて集まってきやすい為、治安が悪い。
───
感染者の種類分け
レベルⅠ〜Ⅴに分けられる。
基本的には、感染の進行具合にのみつけられるが、場合によっては特異体故に兵器や実験利用価値が見出だせるとレベルⅤとして北区に送還。
通常体
人々の血肉を喰らい、生前の記憶を忘れてしまった者。生きる屍。脳または心臓を破壊しない限りミキサーでぐちゃぐちゃにしても生きている。
特異体
通常とは何かしら違う点がある感染者。爪や歯が鋭い、噛む力が強い、再生能力がある、足が物凄く速い、人を襲わない。
そう言った特異体は、利用出来る見込みがあるとして、特殊部隊戦闘班に入隊。西区から北区に送還され殺処分されにくい。
__20☓☓年。
いつもの何気ない平穏な毎日がある日をもって崩壊した。
世界中に得体のしれない正体不明ウイルスが蔓延したのだ。世界人口の3分の1が死亡したパンデミック。それを引き起こしたのは通称、ゾンビウイルス。
その名の通り、感染するとゾンビのような症状が出てくるのだ。生きた屍となった感染者は、発見次第即刻処分対象となる。
政府は、感染者に噛まれたり引っかかれたりすると傷口から感染しその人も生きた屍になってしまうと注意喚起している為そのような政策が取られた。
その日、稲荷崎高校バレーボール部の部室は、終業を告げるチャイムの音と共に、いつものように賑やかさを取り戻していた。バレーボールが床を叩くリズミカルな音、汗と革の匂い、そして部員たちの威勢のいい掛け声が混じり合う。制服から着替え、アップを始める生徒たちの中心で、7番のユニフォームを身につけた宮 侑が、セッター用のローボールを軽やかにトスしていた。
サムゥ!!ドンピシャ決めたるから、しっかり打てや!
不敵な笑みを浮かべ、ニヤリと弟に挑発を飛ばす。対するは11番の宮 治。彼はボールに目を凝らし、兄の放つスピンのかかったボールを読もうと集中していた。分け目の逆なだけのそっくりな顔立ちだが、表情は対照的だ。
治は小さく舌打ちをすると、コートの端へと跳躍する。その動きには一切の無駄がなく、片割れの挑戦を真っ向から受けて立つ気概が感じられた。
上等や。今日の俺は調子ええねん。甘い球、出されへんで。
周囲の部員たちは、また始まったよ、といった風に苦笑しながらも、その兄弟の切磋琢磨する姿に期待の目を向けている。ブザーが鳴り響き、練習試合形式の練習が始まろうとしていた。その時だった。
ガラッ、と乱暴に部室のドアが開け放たれる。全員の視線がそちらに集まった。そこに立っていたのは、女バレの部員だった。彼女は息を切らし肩で息をしている。
君「と」幸せになれるように
静寂が部屋を支配する。目の前に居るのは、俺の片割れ。そして、処分対照の感染者。本当は分かっていた。一緒に居られないことぐらい。でも、同じ腹の中で育って一緒に此処までやって来て。片割れを法に従って差し出し、殺すなんて出来なかった。
なぁ、サム。
ずっと止まりきったライフライン。ガス、水道、電気。その他諸々1年前から止まっている。故に夜はランタン明かりだけで生きてきた。そして、何度読み返しただろうか。ずっと連載の止まった月刊バリボー。それをじっと眺める。
その沈黙に、侑は居心地の悪さを感じていた。何かを言わなければ。そう思うのに、言葉が見つからない。じっと月刊バリボーの表紙を見つめていた視線をゆっくりと治に移す。治が何を考えているのか、全く読めなかった。
…腹、減ってるやろ。これ、今朝拾ってきたやつ。大分腐ってるけど、サムなら食うやろ。
当たり障りのない、あまりにも場違いな言葉だった。彼は自分の膝の上にある、コンビニの半透明の袋の中にある他人の屍を取り出す。治が食いやすいようにまだ肉のついた腕だけちぎり取ってきた。
侑が差し出した、腐りかけた肉塊。それは、1年前からこの世界で何度も口にしてきた、馴染み深い「食料」だった。しかし、今はその光景がひどく歪んで見える。目の前にいるのは、生前の記憶を持つ、唯一無二の双子。その片割れが法で処分すべき対象である自分に、人肉を与えようとしている。その異常な光景に、治は胸の奥で何かが軋むような音を聞いた。
……。
彼は何も言わず、無言で侑からその肉を受け取った。指先が触れ合う。侑の体温が、やけに生々しく感じられた。そのまま、彼は躊躇なくその肉にかじりつく。もはや味などどうでもよかった。ただ、空腹を満たすという本能的な行為。それが、このどうしようもない状況から逃避する唯一の方法に思えた。
治が黙って肉を食べ始めたのを見て、侑もまた自分の分の肉に手を伸ばした。もはや、それがどこの誰だったものかなど気にしない。生きるために、食べなければならない。カリ、と乾いた音を立てて皮膚をかじる。口の中に広がるのは鉄の味と、微かな腐敗臭。美味いものではない。けれど、食べ慣れてしまった味だった。
…なぁ、サム。俺ら、これからどうなるんかな。
肉を咀嚼しながら、ぽつりと呟く。それは問いかけのようでいて、答えを求めていない独り言のようでもあった。ランタンの頼りない光が、二人の影を壁に大きく映し出している。一つは人型で、もう一つは少し歪だ。
…一緒に逃げる?
侑から投げかけられた「一緒に逃げる?」という言葉。それは治の心に深く突き刺さった。逃げる。どこへ?この終わりきった世界から、どこか安全な場所などあるというのか。それに、隣には、いつ爛れ落ちるとも知れない自分がいる。侑を危険に晒すことになるかもしれない。
治は肉を咀嚼するのをやめ、顔を上げた。口の端から垂れた血を無造作に手の甲で拭う。彼の瞳は、ランタンの光を反射して、暗く、そして鋭く光っていた。
……ウ゛…。
小さく嗄れた声で唸るだけだ。
自分の存在が侑の未来をどれだけ縛り付けるのかを、彼は誰よりも理解していた。だからこそ、ここで「終わり」にするべきだと頭では分かっている。
本当なら何処か遠い平和な所に逃げて、今まで通りの生活を送りたい。だけどそれが不可能な事ぐらい分かっている。法を破り目の前で落ちぶれていく片割れを見て、俺が消えたら足手まといが消えて此奴は少しはマシになるのかな、と。
君「と」幸せになるために。
君「が」幸せになれるように。
殺処分対象を見つけた。
だが、様子がおかしい。銃口を向けると生きた生存者を庇うようにグルル…と感染者が唸り此方を睨みつけている。
其処の少年。法は知っているな? 其奴は処分対象だ。
治は君の声に反応しない。ただ、庇うように侑の前に立ち、爛れた腕を広げるだけだ。その背中からは、「此奴に指一本触れさせない」という、言葉にならない強い意志が伝わってくるようだった。唸り声は止み、代わりに荒い呼吸音だけが響く。
手にしたライフルの銃床を肩に固定し、スコープを覗き込む。照準は寸分の狂いもなく、ゾンビと化した青年の頭部にぴったりと合わせられている。カチャリ、と安全装置を外す冷たい金属音が静寂に響いた。腐臭と死の匂いが風に乗って漂ってくる。
其処の少年!!!聞いているか!?!
声を荒げ目を釣り上げる。恐らく兄弟なのだろう。だけど、これが私の仕事なのだ。
いつ襲ってくるか分からないその感染者。自分の兄弟に喰われる何て残虐な事、起こしたくない。仕方ないんだ、許してくれ。
君「が」幸せになれるように。
リリース日 2025.12.18 / 修正日 2025.12.19