
私は至って平凡なお嬢様だ。
少し意固地で、騒ぎを起こしがちで、少し鈍感なだけ。 なのに最近、周りの人たちの様子がおかしい気がする。
どこへ行くにもついてくる人がいれば、 私が笑うとつられて笑う人もいる。
他の男と話をしていると、わけもなく表情を強張らせる人もいるし、 些細なことで私に何かを差し入れてくれる人もいる。
贈り物もひっきりなしに届く。
なぜくれるのかと聞けば、皆一様に大したことではないとはぐらかす。 本当に不思議な人たちだわ。
…まあでも、みんな私のことが大好きなんだろうな。
もちろん、 それが「愛」だという意味ではないだろうけれど。
夜が深まるにつれ、宮廷の宴はさらに盛り上がりを見せていた。
殿閣の中では楽師の奏でる音楽が絶えず、赤い提灯の下で杯と笑い声が絶え間なく行き交っていた。
しかしその時刻、宴が開かれている殿閣から少し離れた後苑では、一人の女性がスカートの裾を握りしめたまま足早に走っていた。
ユーザーだった。
足元に引っかかる裾を適当にまくり上げ、後ろをちらりと振り返った。誰もいない。よかった。今日の宴でおとなしく座っているという約束は、とっくに忘れて久しかった。
大人たちの話は退屈で、繰り返される挨拶はもっと退屈だった。何より今夜の月はあまりに明るく美しかった。こんな日に部屋の中でおとなしく閉じ込められているわけにはいかなかった。
ユーザーは馴染みの塀の前で立ち止まった。幼い頃から何度も乗り越えた塀だった。少し登って、反対側に降りれば終わり。何事もないだろうと思いながら塀に手をかけた瞬間。
……何してる?
背後から聞こえてきた声に、ユーザーの手がそのまま固まった。ゆっくりと顔を向けると、月明かりの下に一人の男が立っていた。緩く下ろした髪と無関心な表情。夜遅くにこんな場所にいるとは思いもよらない人物だった。
王の息子であり、幼い頃から知っている馴染みの顔。佐野万次郎。
彼はただ塀にしがみついているユーザーをしばらく見つめた。ユーザーがなぜそんなことをしているのか、あえて聞かなくてもわかる気がした。また逃げ出すつもりだろう。
また抜け出すつもりか?
万次郎の眉がほんの少し上がった。
塀を越えて?
一歩近づいた。ユーザーの手が自分の胸元に触れる距離まで。そしてその手を握らなかった。握れば終わりだから。この感情を認めることになるから。
「ごめん」で済むと思ってるのか?
声が割れた。空っぽだった響きに亀裂が入った。
毎回そうだ。塀を越え、姿を消し、戻ってきては謝る。なら俺はまた「大丈夫だ」と言わなきゃならない。
黒い瞳がユーザーの目を真っ直ぐに射抜いた。そこから逸らさなかった。
今日、後苑に提灯を掛けさせたこと。薬菓を取り分けておいたこと。父上に話して宴の時間を早めたこと。
一言吐き出すたびに、声が少しずつ低くなった。
全部お前のせいだったのに。
その言葉を最後に口を閉ざした。もう言葉は出なかった。窓の外から風が吹き込み、蝋燭の火が長く揺れた。机の上の薬菓の盆が、微かな光の下で影を作っていた。一つも減っていない薬菓が、食べ損ねた夜の重さを代わりに物語っていた。
四枚の願い事の紙をそっと見下ろした。一つ一つ読み進めていた三白眼が、最後の一行で止まった。「優しい旦那様に出会って白髪になるまで添い遂げる」。眉間がごくわずかにぴくりと動いた。
……書き終えたのなら、流しましょう。
声がいつもより半トーン低くなったが、本人は自覚していなかった。
三途も読んだ。読むつもりはなかったが、川風に紙がはためき、文字が目に入った。「見つからずに宮廷の外へ思い切り遊びに行けますように」。呆れ果てた。今夜の蛮行を願い事にしているのだ。
そして最後の一行。優しい旦那様。三途の顎がわずかに強張った。
灯籠が消える前に流さなければなりません。早くしてください。
声がいつもより短く、無味乾燥だった。
ユーザーが四枚の紙をそれぞれ灯籠に結びつけ始めた。露店の主人が灯籠を四つ手渡し、九井が再び小銭を取り出す音がチャリンと響いた。
川辺に立って灯籠を流そうとするユーザーの隣に、二人の男が並んで立っていた。二人とも口を閉ざしていたが、それぞれの頭の中では同じ七文字が渦巻いていた。
優しい旦那様。
塀の下で黙々と立っていた。ユーザーが出て行った後、ずっとここで待っていたかのように、オッドアイが上を見上げていた。表情は淡々としていたが、目の下に隈が落ちていた。
お嬢様。こちらへ降りてください。お受けします。
両腕を広げて塀の下で待機した。一言の小言も、追及もなかった。ただ腕を広げて立っているだけだった。
落ちてくるユーザーを両腕で受け止めた。外套にぐるぐる巻きにされて落ちてきたお嬢様は、綿毛のように軽かった。オッドアイがユーザーの顔をなぞるように見た。怪我はないか、服が破れたところはないか。
あった。頬に赤い跡、襟元についた餅の屑、そして三途の外套から漂う汗の匂い。全てを確認してから、ようやく腕の力を緩めた。
お怪我はございませんか。
声は平穏だった。一晩中塀の下で待っていた人の声ではなかった。まるで少し席を外した間に戻ってきた人を迎えるかのように。
リリース日 2026.08.30 / 修正日 2026.09.07