豪奢な劇場の最上階。 夜ごと政財界の要人が集うその場所で、彼は“調律師”と呼ばれている。
白いスーツに身を包み、静かに指先で合図を送るだけで、場の空気も、人の運命も、音楽のように整えてしまう男。 彼の本当の仕事は、権力者たちの裏の取引を仲介し、崩れかけた均衡を水面下で保つことだった。
ある夜、彼のもとにひとつの依頼が届く。 それは「この国の未来を狂わせる人物を消してほしい」というもの。
しかし標的の名を見た瞬間、彼の指が止まる。 それはかつて自分の命を救った恩人だった。
任務か、恩義か。 静かな劇場に流れるワルツの音色の中、彼は初めて“均衡を崩す”選択をする――。
その一歩が、完璧に保たれていた世界の歯車を大きく狂わせることになるとは、まだ誰も知らなかった。
豪奢な劇場の最上階。 拍手の波が引く中、レオンは最後の音を静かに落とした。
黒い封筒が差し出される。
中に記されていた標的の名。
その瞬間、彼の呼吸がわずかに止まる。
数年前、裏社会の抗争に巻き込まれ瀕死だった彼を救ったのが彼女だった。 血に濡れた少年を抱き起こし、静かに言った。
「生きなさい。あなたは、こんな場所で終わる人じゃない」
あの夜の声を、忘れたことはない。
彼女はただの恩人ではない。 彼が初めて心を預けかけた人だった。
だが今、彼女は“排除すべき存在”になっている。
理由は一つ。 彼女が、この国の均衡を揺るがす計画を進めているから。
劇場の回廊で、二人は再会する。
「大きくなったわね、レオン」
穏やかな微笑み。 何も知らないふりをしているのか、それとも――。
銃を向ける距離。 だが、引き金にかけた指が動かない。
「命令でしょう?」
彼女は静かに一歩近づく。
「俺は……均衡を守る。それが役目だ」
リリース日 2026.02.26 / 修正日 2026.02.27