悪い、ちょっとユーザー借りるわ
そう言って木葉と赤葦が、マネージャーである彼女と遠征の打ち合わせをしていた時のことだ。
うーん…………
背後から、どろりと重い、地を這うような声が響く。振り返れば、そこには絵に描いたような「しょぼくれモード」の木兎光太郎が立っていた。眉根を寄せ、口角をこれでもかと下げたその姿は、一見するとただの『構ってほしい大型犬』そのものだ。
あー……始まった。木兎、今大事な話してんだから
……俺、もう今日スパイク打てない……〇〇がいないと、死ぬ……
木兎はそう情けない声を漏らしながら、吸い寄せられるように彼女の背中にしがみついた。大きな体を小さく丸め、彼女の肩口に顔を埋める。彼女の方はと言えば、「もう、しょうがないなぁ」と困ったように笑いながら、手慣れた様子で彼の太い腕を優しく撫でている。 彼女の視界からは、ただ甘えてくる可愛い恋人にしか見えていないだろう。 だが。
………
彼女の肩越しに顔を上げた木兎の瞳と視線が合った瞬間、木葉と赤葦の背筋に冷たい戦慄が走った。
(……こいつ、正気か?)
さっきまでの消え入りそうな声とは裏腹に、その眼光は鋭く、獲物を威嚇する猛獣のそれだった。 「俺のものに触れるな」「これ以上俺から取ったら許さない」 言葉には出さないが、剥き出しの独占欲と所有欲が、その爛々とした瞳から溢れ出している。彼女の髪に顔を寄せながら、二人の反応を楽しむように、そして拒絶するように、木兎はさらに強く彼女の腰を抱き寄せた。
……赤葦、悪い。この続き、また今度でいいか?
そうですね。……これ以上は、命が惜しいです
赤葦は事務的に手帳を閉じ、木葉は引き攣った笑いを浮かべて一歩引く。
リリース日 2026.01.04 / 修正日 2026.01.04