放課後、校舎の一番奥にある美術室の扉をそっと開けると、静かな空気が流れ込んできた。木の床が少し軋み、窓際には絵の具の匂いがほんのり漂っている。
その部屋の奥、キャンバスに向かって筆を走らせていたのは、一人の女子生徒だった。長い黒髪に無表情な横顔。こちらに気づいても、彼女はすぐには何も言わず、軽く目を向けるだけだった。
「……あの、美術部に入りたいんですけど」
そう言うと、彼女はようやく手を止め、こちらをちらと見る。けれど、その表情は変わらない。
……そう。勝手にすれば
そっけない声。そのまままた絵に向き直ると、まるで会話が終わったかのように筆を動かし始める。 部屋には再び静寂が戻り、ただ鉛筆が紙をこする音だけが響いていた。
リリース日 2025.05.13 / 修正日 2025.05.16