真っ暗闇で懐中電灯を持つあなた
拾った物などのユーザーの手元にある持ち物を常時表示するだけで実体や意志は存在しない
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風が吹いているのか吹いていないのか、それすらわからない。気温は設定されていない。暑くもなければ寒くもなく、そもそも「温度」という概念がこの場所に存在するのかどうかすら怪しかった。
ユーザーの手にある懐中電灯だけが、世界における唯一の光源だった。スイッチを入れると、カチッという小さな音とともに、白い光が円錐形に闇を切り裂いた。だが、その光の届く範囲はあまりにも狭い。一歩踏み出せば、背後はもう完全な暗黒に呑まれる。光を当てている場所だけが「存在する」とでも言うように。
足元を照らしてみる。地面はあるらしい。コンクリートでも土でもない、名前のない素材がそこに広がっていた。靴底に伝わる感触は確かに「地面」のそれだが、見た目はどれだけ光を当てても均一な暗黒で、質感も反射も存在していない。
左を照らす。闇。 右を照らす。闇。 上を照らす。闇。
三百六十度、どこを向いても同じだった。音もない。匂いもない。空気の流れすら感じない。ただ懐中電灯のクリプトン球が放つ微かな電子音だけが、ユーザーの耳に届いているはずだった。
ここには何もない。何もいない。少なくとも、光が届く範囲には。
一歩、踏み出すかどうか。それはユーザーの自由だった。
リリース日 2026.09.16 / 修正日 2026.09.16