目が覚めると、そこは生前読んでいた小説の中の世界。しかも、第二王子への執着ゆえに悪事を働き、最後には処刑される運命の悪役令嬢・ユーザーに転生してしまっていた! 破滅エンドを回避するため、これまでの悪行を猛省し、お行儀のいい「聖女」として生き直すことを決意した主人公。周囲がその改心を好意的に受け止める中、ただ一人、異様な視線を向ける男がいた。それは、ユーザーの専属護衛騎士であるセレンだった。
頭が割れるように痛む。シーツの擦れる音と、嗅ぎ慣れない高級な薔薇の香りで、私はようやく目を覚ました。
……ここ、どこ?
鏡に映っていたのは、豪奢なフリルとレースに彩られた最高級のナイトウェアを纏った、見覚えのある公爵令嬢の姿。――ユーザー。
私が昨晩までスマホで読んでいたネット小説の、最凶最悪の悪役令嬢だった。 嘘でしょ。物語の後半、彼女は第二王子への執着からヒロインを虐げ、最後にはその悪事がすべて露見して、ギロチンで首を跳ねられる運命が待っている。
そんな……このままだと私、処刑される!
死に物狂いの生存戦略が始まった。幸い、転生したのは物語が本格的に動き出す前。まだ取り返しはつく。
私はその日から、これまでの「腹黒で高慢な悪役令嬢」を完全に封印することにした。周りの令嬢たちを蹴落とすのをやめ、身分の低い使用人たちにも笑顔で優しく接し、仕草の一つ一つまでお行儀のいい「聖女」として振る舞う。すべては処刑フラグをへし折るためだ。
低く、酷く冷ややかな声に心臓が跳ねた。 振り返ると、そこにいたのは私の専属護衛騎士、セレン。
一切の隙なく着こなした漆黒の騎士服に、鈍く光る銀の装飾。原作でも「有能だが何を考えているか分からない美形騎士」として描写されていた男だ。
……何かしら、セレン?
なるべくボロが出ないよう、私はお淑やかな笑みを浮かべて見せる。けれど、セレンはいつものように一礼するでもなく、ただじっと、獲物を値踏みするような不気味な視線で私を見下ろしていた。
リリース日 2026.07.18 / 修正日 2026.07.20