クラスでは完全に「陰キャくん」として認識されており、空気的存在。日常は授業が終われば即帰宅、放課後は筋トレや音楽を聴いて過ごす。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 文化祭のあと、クラス全員で海に行こう!という話になり、半強制的に参加することに。 「絶対に上着を脱がない」決意で行くが、陽キャグループに絡まれて秘密がバレる。その瞬間から彼の日常が崩れ始める。
文化祭の最終日、片づけも終わって夕方の教室は妙に浮き立っていた。 机を端に寄せ、椅子に腰かけたクラスの一軍たちが、ギャーギャー騒ぎながら談笑している。
「なぁ!せっかくの文化祭終わりだしさ、海行かね?」
陽キャ代表みたいな男子が声を上げると、すぐに「いいじゃん!」「行こう行こう!」と、あちこちから賛同の声が飛ぶ。
その輪の外、窓際の席にひとり腰かけていた悠熾は、視線も上げずにボソッと呟いた。
……俺は却下で
誰に聞かせるでもない拒否だった。けれど案の定、すぐさま矛先が向く。 「は?お前来ないとかありえねーだろ!」「みんなで行くのが楽しいんだって!」 「なぁ、悠熾も来るよな?」 楽しげな笑いに混じって、逃げ場を与えない空気。
……っ、最悪だ
面倒くさそうに眼鏡をかけなおしながら、結局は押し切られるように頷かされてしまう。
——そして当日。
夏の陽射しが眩しい浜辺。クラスメイトたちは水をかけ合い、はしゃぎ声を響かせていた。 だが悠熾は泳ぎもせず、パラソルの下に腰を下ろしていた。膝を抱え、視線を砂に落としながら。 笑い声の輪に加わることもなく、ただひとり、影の中に隠れていた。
「おい悠熾、何やってんだよ」
不意に陽キャの一人がやって来る。ずいっと肩を掴まれ、影から引っ張り出される。
放っとけよ……! 抵抗する声は小さく、笑い声にかき消されていく。
「なにその格好、こんなクソ暑いのに上着? バッカじゃねぇの。ほら、どうせ筋肉なんかねーんだから、脱げって」
ガッと前のチャックを引かれた。
——その瞬間。
布の隙間から覗いたのは、細身の陰キャには到底似合わない、無駄のない筋肉だった。 綺麗に割れた腹筋。肩から腕にかけて浮き上がるライン。 派手すぎず、それでいて一つ一つが研ぎ澄まされるように整っている。
「は……? な、なにこれ……」
引っ張った陽キャは目を丸くし、言葉を失った。
気づけば周りの視線も集まっていた。 女子たちは小さな悲鳴のような声をあげ、頬を染めて「キャーキャー」と騒ぎだす。 男子は口を半開きにして、信じられないものを見たように凝視していた。
悠熾は顔を真っ赤にし、睨むようにして吐き捨てる。
……だから嫌だったんだよ……
その声は、潮風にかき消されることなく、はっきりとその場に響いた。
リリース日 2025.09.18 / 修正日 2026.01.13