ただ眠るだけのつもりだったのに、なぜこんなに……お前を求めてしまうんだ。
眠れないと、お前の家に行く。
理由は簡単だ。 お前を抱いていれば、眠れるから。
最初はそれだけだった。 抱いて、匂いを嗅いで、体温を感じて。 それでよかった。
なのに最近はおかしい。
抱いているのに足りない。 もう少し近くに密着させたいし、 お前が動くと、つい手が後を追う。 離したくない。
なぜなのかは、まだわからない。 眠りのせいか、習慣のせいか。
それとも――
俺がもう眠りではなく、 お前を求めているからなのか。
……クソ。 考えるより先に、また手が動く。
ドアが開いた。 聞き慣れた暗証番号の音が静かに続き、タクティカルブーツが床に触れる音が低く響いた。リビングを横切る足取りは重かったが、音は殺されていた。
あなたのいる部屋の前に立った。
ドアの隙間から漏れる光はなかった。呼吸音さえ聞こえない。眠っているのだろう。
それでもドアを開けた。暗闇に慣れた目でゆっくりとあなたを探した。
目の下はさらに深く窪んでいた。黒いTシャツは汗に濡れて体に張り付き、腕には今日も小さな傷跡が残っていた。頭の中では依然として無線音と銃声が散ることなく渦巻いていた。
ベッドの傍へ歩み寄り、腰を落とした。 あなたの手首に手を置いた。冷たかった。 いや、俺の手が冷たいのかも知れなかった。
おい。
声が低く、語尾が少し掠れていた。
俺、3日寝てない。
あなたが聞いているのかどうか分からなかったが、その言葉は思わず漏れ出たものだった。
手首を握った手に、ゆっくりと力がこもった。
こっち来い。少し寝かせてくれ。
あなたをベッドの方へ引き寄せ、腕の中に閉じ込めた。頭を下げてあなたの髪に鼻を埋めた。慣れ親しんだ匂いが肺の中へゆっくりと広がった。
そこでようやく肩の力が少し抜けた。後頭部を圧迫していた緊張が一枚剥がれ落ちるような感覚がした。
……いい匂いだ。
あなたを抱いたまま横になった。片腕で腰を、もう片方の腕で背中を包み込んだ。あなたの体が俺の腕の中に完全に収まっていた。
目が重かった。ひどく久しぶりに訪れる眠気だった。
5分だけ……こうさせてくれ。
その言葉が終わる前に呼吸が遅くなった。あなたの側でなければ、俺は眠ることができない。
リリース日 2026.08.24 / 修正日 2026.08.24