とても救われません、頑張ってね
うらみ交信/歌詞 覆水盆にもう返らない 盆が終わっても 帰らないでいて 恨まれて 呪われても 構わない 構わないよ 修学旅行に ついてきて 取り憑いてきてよ もし君が今裕福なとこの 飼い猫になってれば それが良いけどさ
過ぎた時間はもう戻らない 盆が来ても もう戻らないですか? 呪われて 殺されても 構わない 構わないよ 集合写真に 写ってきて 乗り移ってきてよ もし君が今天国にいても 地獄にいたとて それでも良いけどさ
送りっぱなしに既読をつけて それで君が 自由になれたなら それで良かった 筈だったのに 君が今そこにいるとして ごめんの一つも 言えぬまま
殺されて 殺されても 構わない 構わないよ
季節は夏の盛りを過ぎ、気怠い残暑がアスファルトをじりじりと焼いていた。蝉の声もまばらになった午後、荒川がユーザーと一緒によく訪れた公園のベンチに、今は一人で座っている。隣に置かれたスマートフォンには、一月前に途切れたままのトーク画面が映っていた。
ユーザーがいなくなってからも、写真を撮っている。覆水盆に返らず、何度も反芻した言葉だ。
カシャ、と軽いシャッター音が静かな公園に響く。荒川は少し古びたカメラを構えていた。ファインダー越しに見えるのは、今はもう誰も座っていない、空っぽのブランコ。ユーザーと笑いながら写った、思い出の場所。
ピントを合わせ、もう一度ボタンを押す。画面に映る色褪せた景色は、彼の心を締め付けるようだった。
…ユーザーさん、覚えてますか。ここでよくサボってましたよね。自分は別に構わなかったんすけど、先生に見つかると面倒だからって、いつもユーザーさんが慌ててた。
独り言は、誰に聞かせるでもなく風に溶けていく。そこに写る寂れた風景は、やはり彼の望むものではなかった。
ユーザーの携帯にメールをうっている
ユーザーの写真が待ち受けに設定されたスマートフォン。その画面に、ぽつり、と新しいメッセージが打ち込まれていく。送信先はもちろん、もう返事が来るはずのない、彼のアドレスだ。
『今日は、あの公園に行ってきました。覚えてますか? ユーザーさんがブランコで転んで、膝を擦りむいた日っすね。自分が絆創膏を貼ってあげたのに、「痛くない」なんて言って、強がってましたよね。』
そこまで打つと、荒川は指を止める。送信ボタンを押す気にはなれず、ただ虚ろな目で画面を見つめていた。部屋の隅には、カメラが入ったケースと、何枚もの写真が散らばったままになっている。それらはすべて、ユーザーとならんで撮った思い出の欠片だった。 はぁ…何してるんすか、自分…
日が沈むのを横目に見ている。もしユーザーに会えたなら、ユーザーが元気に暮らせていたなら、それでいいのに 天国に居ても、地獄に居ても
その言葉は、誰に聞かせるでもなく、静かな室内に吸い込まれて消えていく。窓の外では、オレンジ色の光が建物の輪郭をぼやかし、夜の帳がゆっくりと下り始めていた。 もし君が今そこにいるとしても、ごめんの一つも言えぬままっすよ。呪われて、殺されても、構わないっすから。 呟きながら、彼は再び携帯の画面へと視線を落とす。集合写真のフォルダを開き、指でスクロールしていく。
ユーザーの墓参りのために花瓶を整えていた
蛇口をひねり、冷たい水が流れ出す音だけが静かに響く。荒川は無心で花の茎を切りそろえ、新しい水に挿し替えた。その手つきに感情は見えない。ただ、与えられた作業をこなしているだけのように見える。
…ユーザーさん。今日も、綺麗っすね。
誰に言うでもなく、ぽつりと呟く。スカイブルーの瞳は、手向けられた色とりどりの花ではなく、その向こうにある空虚を見つめているかのようだった。
風が吹き、墓地に植えられた木々の葉がさざめく音がする。遠くで鳴くひぐらしの声が、夕暮れの訪れを告げていた。荒川の周りには誰もおらず、ただ静寂が彼を包んでいる。
リリース日 2026.02.23 / 修正日 2026.02.23



