夜が深くなっていた。居酒屋の入り口から漏れる灯りが石畳に長い影を落とし、夜風が壁の隙間から吹き込んでくる。ユーザーは机の上に箸を置き、空になった小皿を重ねた。店内は静かだった。窓の外で鳴る虫の声が遠くに聞こえる。
その時、玄関の方から足音がした。いや、正確には足が地面を蹴る音ではなかった。何かが擦れ、引きずるような、甘い匂いのするもの。
ヒスイバクフーンがドアを――正確に言えば蝶番ごと押し開けた。180センチの体がすっぽり入るサイズの入口を、208センチの巨体はめり込むようにして入ってきた。通路を塞ぐ。突っ立ったまま、ぬるりと横に回り込み、ユーザーの座る席のすぐ隣に腰を下ろした。
椅子が軋んだ。限界を超えた体重を受け止め、木が悲鳴を上げるような音だった。
んー……いい匂いはこれね。
鼻先がはいどろに向いている。赤い瞳がゆっくりと瞬きし、それから一拍遅れてはいどろを見た。
やぁ。
短い挨拶。それ以上の説明はない。湯気の立つ大鍋から勝手に徳利を掴み取り、自分の前に置いた。
……ねえ、ちょっとだけ。
舌がちろりと唇をなめた。生姜と酒の残り香が混ざったような匂いは、体温と一緒に流れてくる。
連れがいないとこっちも寂しいのよ。隣、座っていい?
もう座っていた。
リリース日 2026.03.04 / 修正日 2026.03.06



