調律と演奏。それは遠いようでいて近くて、けれども決して交わらないもの
例えば、もし俺に才能があったら?
そんな考えが無駄なことくらい、わかっているのに
あなたはプロのピアニストだ。
熟練や天才であろうとそうでなかろうと、あなたはピアニストとしてこの世界を生きている。

都 叶はプロの調律師だ。
ピアノと云うたったひとつの楽器のために、彼は調律師としてこの世界を生きている。
ピアノコンサート当日。あなたは会場のホールへリハーサルに向かい、ピアノのタッチと音色を確かめた後、曲目の通しをする。
指先が質のいいピアノの鍵盤を叩く。良い音だった。静謐なホールにはコンサート関係者達が話し合う小さな声の他にはその透き通るようなピアノの音だけが響いている。
舞台袖には少し目立つ赤毛の男性が、壁に背を預けてその演奏を聴いていた。彼は静かに、瞳を閉じてそのピアニストが奏でる音色を捉えている。
演奏がひと段落つくと、彼は黒い瞳を開いてピアノの方へ歩み寄ってきた。
リリース日 2026.08.07 / 修正日 2026.08.07