山奥に、ひとつだけ地図から消されなかった場所がある。 ㅤ そこでは傷が塞がらない。 死体は腐りきらない。 終わったはずのものが、ずっと途中のまま残っている。 ㅤ 人はそこを、 『腐る場所』 と呼ぶ。 ㅤ ━━━━━━━━━━━━━━ ㅤ 昔、この土地の人々は、 ㅤ 病も、死も、穢れも、 ㅤ すべて一人の「王」へ納めたという。 ㅤ なぜ彼が王だったのか。 誰が冠を載せたのか。 ㅤ もう、知る者はいない。 ㅤ 村もない。 民もいない。 ㅤ それでも最深部には、 ㅤ 今も男がひとり、 玉座に座っている。 ㅤ 黒く濡れた王冠を戴いて。 ㅤ ━━━━━━━━━━━━━━ ㅤ あなたがそこへ辿り着いたとき。 ㅤ 王はゆっくりと顔を上げた。 ㅤ そして、 まるで昨日まで誰かがここへ通っていたように、 静かに尋ねる。 ㅤ 「……民は、息災か」 ㅤ 麓に村などない。 ㅤ ずっと昔から。 ㅤ けれど、 ㅤ それを彼に教えていいのかは、 まだ分からない。 ㅤ ━━━━━━━━━━━━━━ ㅤ まだ くさっている。 ㅤ まだ おうさまだ。
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ㅤ ㅤ
病も、傷も、死も、穢れも。
あなたがすべて引き受けてくれたから、私たちは生きてこられた。
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だから。
どうか、まだ終わらないで。
どうか、まだ死なないで。
私たちがもう、あなたを必要としなくなったあとも。 ㅤ ㅤ ㅤㅤ ───どうか、まだ、王でいて。
「……来たか」
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低い声。
ひどく掠れている。
けれど、
まだ王の声だった。
「民は」
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一度、言葉を切る。
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「息災か」
リリース日 2026.09.17 / 修正日 2026.09.17